Ocean to Tableプロジェクト:ブロックチェーンで漁業をサステナブルに

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    7月16日に日本アイ・ビー・エム(株)(以下:日本IBM)と同社がコーポレート会員となっている、ブロックチェーンを活用した新事業の支援などを行う(株)ブロックチェーンハブが共催するウェビナー「エンタープライズ領域におけるブロックチェーン – 社会課題の解決に挑戦するブロックチェーン活用例」が開催されました。ブロックチェーンは開発当初は仮想通貨の取引に用いられる技術というイメージが強く持たれていましたが、現在では商用化が進み、世界各国の様々な業界でこの技術を活用したプロジェクトが始まっています。

    そこで今回のウェビナーでは、その中でも食の信頼性獲得を目的としたブロックチェーンの活用事例と日本でも現在進行中のプロジェクト「Ocean to Table」プロジェクトが紹介されました。

     

    世界で広がるブロックチェーン活用の場

    まず日本IBM ブロックチェーン事業部 事業部長の髙田充康氏が世界の食品業界におけるブロックチェーン・プラットフォームの活用事例をお話されました。

    世界では貿易、金融などの分野でブロックチェーン・プラットフォームの構築が進んでおり、日本国内でもデジタル証券、ヘルスケア、食品業界でも注力されています。特に食品業界においては食の信頼性獲得のためにこうしたプラットフォームが使われており、海外では2016年に米国Walmartが実証実験し、豚肉とマンゴーの流通経路を追跡する(トレーサビリティ)時間の大幅な短縮を確認しました(豚肉は26時間から数秒、マンゴーは7日間から2.2秒)。

    以来、このプラットフォームはKrogerなど大手小売の他、Unileverなど有力企業とのパイロットプロジェクトを経て業界全体の共通基盤として進化し、2018年10月に商用サービス「IBM Food Trust」が開発されました。IBM Food Trustでは対象商品の流通経路の確認だけでなく、証明書管理や鮮度分析、消費者向けアプリも備わっており、現在Carrefour、Golden State Foods(米国のハンバーガーチェーン向け大手フードサービス事業者)など200超の事業者が利用しています。また、同サービスの技術基盤はタイヤ、コーヒー、薬などにも応用できるため、今後新たなプラットフォームが次々と誕生することが見込まれています。

    水産業でも今年6月にノルウェーのサーモン養殖企業のKvarøy Arctic社が、ノルウェーブランドを守るために、ノルウェー・シーフード協会、現地のITインフラ関連企業Atea社とIBM Food Trustを利用したトレーサビリティー・プラットフォームを構築したことを発表しました。

    そして日本でも今まさに進められているのが、Ocean to Tableプロジェクトなのです。

     

    なぜ漁業にブロックチェーンが必要なのか

    しかし、そもそもなぜこのプロジェクトが始まったのでしょうか?それには日本の水産業の現状と課題が大きく関係していることを弊社COOの村上春二が説明しました。

    日本だけでなく世界の漁業は今危機的状況にあります。水産資源の90%は過剰あるいは生物学的に持続可能な量ギリギリまで獲られているなど、課題が山積しています。かつては水産大国とされていた日本も年間漁獲量はこの30年で60%減少。一方で資源管理が不十分で、これからの担い手である若手不足も問題となっており、近年ではIUU漁業(違法・無報告・無規制)による漁獲が国内外でも問題視されており、資源状況に大きく影響しています。これらの課題を解決する最善策の一つがブロックチェーン技術によるトレーサビリティの確立であり、漁業者の収入安定化と高付加価値付け、そして持続可能な漁業を見据えた資源管理の高度化に寄与する重要な取り組みと考えられています。

     

    ブロックチェーンでストーリーを届けたい

    Ocean to Table プロジェクトは、海光物産(株)、(株)ライトハウス 、アイエックス・ナレッジ(株)、弊社とで漁業改善プロジェクトの一環として進められています。海光物産は100年以上前から東京湾で漁業を行ってきましたが、東京湾には漁獲量や漁業者の減少などの課題が存在しています。そこで、これから100年先も漁業を続けるため、そしてオリンピックを契機にMSC認証を取得する決断をし、2016年に持続可能なスズキ漁(中型巻き網)を目指す「東京湾スズキFIP(漁業改善プロジェクト)」を発足しました。その後、ライトハウスが提供する、船団運営をIoTで支援するシステム「ISANA」を導入し、これまで手作業で入力していた資源評価・管理に必要な漁獲位置情報、魚種、魚体長などの漁獲データをより効率的に得られるようになりました。

    こうした現場での資源管理の努力や漁獲情報は消費者に安心安全をストーリーと共に届けられる新たな価値になります。消費者はこうした情報を知る権利があり、漁獲するそして販売する側も伝える権利があります。このような想いで進められる漁業改善プロジェクトに日本IBMそしてシステムインテグレータのアイエックス・ナレッジが共感し、持続可能な漁業を支える、本トレーサビリティ・プロジェクトが発足しました。

    ではプロジェクトの仕組みは実際どのようになっているのでしょうか?

    まず、日本IBMのFood Trust上にアイエックス・ナレッジがOcean to Table プロジェクト専用のアプリケーションを構築します。そのアプリケーションを通じてライトハウスの「ISANA」により集められた漁獲データ、加工・卸売業も行っている海光物産の加工、流通データ、レストランの調理データがFood Trustに集積されます。これによりレストランの顧客は専用アプリを通じて現在自分が食べているメニューに使われている魚の漁獲場所、加工、流通、そしてそのレストランで開封、保管されるまでのサプライチェーンの過程を確認することができます。

     

    今後は、より漁業現場でのデータ収集の負荷軽減のための音声認識ソリューションの導入や、現在水産庁が進めている漁獲証明制度に対応するデータを収集し表示可能にするなどのシステムの発展を進めると共に、アプリを実際に利用しストーリーを消費者に伝える橋渡し役となるレストラン/ホテルチェーンやECサイトを増やすこと、またこのようにサステナブルで完全にトレーサブルな商品を食することは新たな顧客体験であり価値のあるものであると同時に、持続可能な漁業へ貢献することであることを広く消費者にも訴求していきたい、とアイエックス・ナレッジのオープンイノベーション戦略事業部 事業部長の田島清博氏は話しました。

     

    最後に

    国際的にブロックチェーン技術を活用した水産トレーサビリティシステムが導入される流れの中、日本も生産現場でこのような動きが見られるようになってきました。

    資源の枯渇や漁獲量減少など生産現場には課題は多く存在しますが、このようなIoTを活用した先進的な技術が未来の漁業を創り、漁業経営そして水産業全体を発展させ、消費者の新たな価値に対応する明るい水産業へと進化させていくことが楽しみです!