シンポジウム2016総括ブログー3 小売が直面するトレーサビリティーと消費者意識問題

シンポジウム2016総括ブログー3 小売が直面するトレーサビリティーと消費者意識問題

2016年11月11日にシーフードレガシーが日経エコロジーと共に開催したサステナブル・シーフード・マーケット・シンポジウム「魚から考える日本の挑戦2016 —東京五輪を機に作り上げる持続可能な調達と食の未来—」。午後の第2セッションでは世界の漁業に最大年間230億USドルの損失を生み出しているIUU漁業について、そして「値段が高い」イメージを持たれがちなサステナブルシーフードを消費者にどうアピールするか、について議論されました。


サプライチェーン上の労働問題と違法漁業に立ち向かう

午後2つ目のセッション、会場Aでは「トレーサビリティが鍵。サプライチェーン上の労働問題と違法漁業に立ち向かう」と題したパネルディスカッションが展開されました。米モントレーベイ水族館のフェデラルポリシーマネージャーであるジョッシュ・マデイラ氏に、国際的に大きな問題となっているIUU漁業や労働問題の概要を説明していただき、欧米で進む行政やビジネスセクターの先進的な対策をご紹介いただきました。




「トレーサビリティーを確立することで、IUU漁業や奴隷問題から発生する企業のリスクを最小限に抑えることができる。」


続いて日立製作所の木原隆宏氏により、バリューチェーン全体を網羅するトレーサビリティの確立により情報の共有化・可視化・最適化が可能であることが示され、花王の執行役員である田中秀輝氏により、パーム油、紙、パルプの分野での認証および原産地追跡と人権やコンプライアンスに配慮した花王の調達についてご紹介いただきました。ファシリテイトはコンサベーション・インターナショナルの代表理事である日比保史氏に務めていただきました。



欧米水産市場はこの国際問題の解決に積極的に動いており、非水産分野では日本企業も同様の問題に取り組んでいます。日本の水産業界もこの問題に当事者意識を持ち、トレーサビリティを確立することで向き合う必要性があることが浮き彫りとなりました。またその実施にはビジネスだけではなく行政による資源管理や貿易規制の適正化が欠かせないこともハイライトされました。


魅力あるサステナブル・シーフード普及の鍵

会場Bでは並行してパネルディスカッション「魅力あるサステナブル・シーフード普及の鍵」が行われました。まずはイオンリテールの水産企画部フィッシュバトンユニットリーダー河岡進様より、サステナブルシーフードだけを陳列する商品棚をイオン店内に設け、サステナビリティの価値を消費者に積極的に情報提供する、フィッシュバトン・プロジェクトの成果や展望についてご紹介いただきました。これは国内大手小売りとして画期的な取り組みとして注目を浴びています。




「サステナブルシーフードを広げたい、その思いから『フィッシュバトン』のコーナーが生まれました。」


河岡様にはこの取り組みを通しての消費者の「認知→理解→納得→購買」の流れもご説明いただきました。続いてシーフードレガシーの佐々木千穂とアナ・チャンが日米で行った消費者意識比較調査の結果を発表し、日本の消費者はコミュニティの特性もありアメリカほど個人としての思いを表には出さないものの、環境保全意識は確実に存在することを紹介させていただきました。

築地マグロ仲卸三代目店主であり一般社団法人シーフードスマートの代表理事である生田よしかつ氏は、自然に対する感謝や先代の想いを大切にする日本独自の感性について、お馴染みの生田節で、満員御礼状態の会場を一気に巻き込むトークを展開。




「うまい魚を食いたきゃ海(市場ではなく)の都合に合わせなさい。」


築地仲卸が放つの言葉がスパッと核心を突きました。

一般社団法人エシカル協会の代表理事でありフリーアナウンサーである末吉里花氏は、生産者の思いやストーリーが共感を生む鍵であることや教育の大切さに触れ、パタゴニア設立者イヴォン・シュイナード氏の言葉を会場の皆様と共有されました。




「何もしなければ、あなたは問題の一部になったことになる。でも何かをすれば、あなたは問題を解決する動きの一部となる。人の価値は何を言うかではなく、何をするかで決まる。」


通訳及びファシリテイトはシーフードレガシーの松井花衣と花岡和佳男が務めさせていただきました。

国内の水産資源管理や貿易規制が先進的な漁業国及び水産市場圏に遅れをとり、日本の水産関連ビジネスや地域社会の未来には懸念が広がっています。しかし日本でも、いや、どこよりも海と密接に関わってきた日本だからこそ、この問題を解決することができると、私たちシーフードレガシーは信じています。海洋環境における社会的課題はますます複雑化・多様化し、行政の主導に頼るだけでは解決への道筋は見えません。だからこそ、企業とNGOがパートナーシップを結び、問題解決に向けて共に動き出すこと、そして、独立性が担保され、科学知見と予防原則に基づいた水産資源の管理強化の需要を作り出す機運が、今後ますます高まることが期待されます。2020東京五輪の調達方針が未来世代を中心としたものになることを願い、シーフードレガシーは引き続き、プレコンペティティブ・コラボレーション(非競争連系)の構築を軸に、日本におけるマーケット・イニシアチブの発展に力を入れて参ります。

ご参加頂きました皆様、そして関係者の皆様、長い1日となりましたが、ご参加頂き誠にありがとうございました。

当シンポジウムのレポートや映像は、準備が出来次第、公開させていただきます。

プログラムや登壇者のプロフィールはこちらのサイトからご覧いただけます。

ページトップへ戻る