IUU漁業に歯止めをかける!各国の取り組みを検証!~US編~

IUU漁業に歯止めをかける!各国の取り組みを検証!~US編~

世界各国のIUU(違法・無報告・無規制)漁業に対する取り組みを特集するブログシリーズ第2回目は、国内で消費する水産物の90%を輸入に頼るアメリカです。アメリカに輸出される水産物の約20〜23%がIUU漁業に関与しているとされ、年間の損失は20億ドルにも及ぶと試算されています。



アメリカの水産物輸入ルート


国際海洋保全NGOのOceanaは、アメリカで流通する水産物のほとんどが下記の図のような、複雑で長い道のりとなっていると報告しています。

IUU漁業に歯止めをかける!各国の取り組みを検証!~US編~Infographic by Don Foley


①漁獲:

漁獲されたほとんどの魚はそのまま船上で冷凍されるか、氷漬けになります。


②船上での加工:

通常漁獲された魚は水揚げ地で加工されますが、漁獲が複数の漁船で行われ漁船ごとに水揚げのため往復する事が非効率な場合などに、加工・運搬専用の冷凍貨物船に漁獲物を集め、加工地へ運搬する場合も多くあります。これは洋上転載と呼ばれ、様々な漁船で漁獲された魚が混載されるため、IUU漁業由来の魚が正規のルートに紛れ込む大きな原因ともなっています。また、このように集められた魚は労働賃金の安い第三国の大規模加工工場に持ち込まれ、加工される傾向にあります。


③加工工場:

ここでは魚が商品として販売できる状態にまで加工、パッケージングされます。ラベルに記載のある”Product of ~“(日本でいう◯◯産)とはこの加工工場の場所であり、実際に魚が漁獲された場所ではありません。


④卸業者:

海外で漁獲、加工された魚はアメリカへ向けて輸出され、ここで始めてアメリカ本土のサプライチェーンに交わります。


⑤フードサービス(レストラン・小売):

卸業者を通して、レストラン、スーパー、食堂など、ありとあらゆるフードビジネスへと広がります。


上記を見て分かるように、IUU漁業由来の水産物の多くはサプライチェーンの初期で正規のルートに紛れ込むことが可能です。さらにパッケージに表示義務があるのは加工された場所であり、実際に魚が漁獲された場所は消費者にはわかりません。ましてや加工された魚であればパッケージに記載されている魚が本当に使用されているかも保証されません。国土安全保障省、食品医薬品局、魚類野生生物局、海洋大気局などアメリカの多くの機関には輸入される魚に関する調査を行う権限や輸入の差し止めを行う権限が与えられていますが、膨大な量の水産物を1つ1つ確認することは非合理的であり、システムの根本的な改革が必要とされていました。


「IUU漁業および水産物偽装撲滅のための大統領タスクフォース」とは


​​​​​​​オバマ大統領により採択された「IUU漁業および水産物偽装撲滅のためのタスクフォース」では対象となる水産物を米国に輸入する業者は、その水産物がIUU漁業由来でないこと、また偽装表示されたものでないことを示すため、輸入時に漁獲情報などの報告と記録保存が求められることとなりました。これはSeafood Import Monitoring Programと呼ばれ、タスクフォースで定められた情報がすべて一元管理されることになっています。現段階では、IUU漁業が懸念される魚種、そして厳格な資源管理が必要とされているのは下に挙げた11種です。


<魚種一覧>

タイセイヨウダラ(Atlantic Cod)、マダラ(Pacific Cod)、ブルークラブ(Blue Crab)、タラバガニ(Red King Crab)、シイラ(Dolphinfish)、ハタ類(Grouper)、タイ類(Red Snapper)、ナマコ類(Sea Cucumber)、サメ類(Sharks)、メカジキ(Swordfish)、マグロ類(Tunas)
*マグロ類には、ビンナガマグロ(Albacore)、メバチマグロ(Bigeye)、カツオ(Skipjack)、キハダマグロ(Yellowfin)、クロマグロ(Bluefin)が含まれます。


水産物の輸入を行う業者は水産貿易に関する許可を得る必要があり、また細かに定められた項目にそった報告や記録を保管する事が義務付けられます。


<提出情報>

旗国名、船舶名、漁業許可書、漁船識別番号、漁具の種類、魚名(学名、俗称、ASFIS)、漁獲日、製品概要(重量、数量など)、漁獲海域、はじめて水揚げされた場所、販売先、など。

アメリカ政府はこうした細かい情報の提出義務を与えることで国内に流通する水産物の管理を強化することを目指しています。国産の水産物に関しては1976年に採択されたMagnuson-Stevens Actにより同様の情報収集と管理が行われています。

2018年1月に施行予定の「IUU漁業および水産物偽装撲滅のためのタスクフォース」。対象が一部の水産物に留まったことに対し一部からは内容の強化を求める声も上がっています。この規則からは優先順位を設け、システムの構築と運用を確実なものにしようというアメリカの姿勢が伺えます。


次回はこうした厳しい基準への対応に追われる輸出国をクローズアップします。


出典:
U.S. IUU Regulation | WWF Fact Sheet
Oceana / Infographic: What is the Path Your Seafood Takes?
Presidential Task Force on Combating IUU Fishing and Seafood Fraud




ページトップへ戻る