世界には推定で現代奴隷が5,000万人もいると推定され、問題は年々深刻さを増しています(*1)。水産分野も無縁ではありません。しかし、水産業における労働者は、陸や街から離れた、孤立した環境で長期間働かされているケースもあり実態の確認は、極めて確認が困難であることが指摘されています。最新の報告書では世界で多くの漁業者が海上で極端な隔離状態で監視され、危険な環境で働かされているリスクがあると報告されています*1。
実際、国際労働機関(ILO)によると、水産業界でもILOが定める11の強制労働指標のうち複数に該当するような労働者の人権侵害が報告されており、労働搾取のリスクが高い業界であることが指摘されています(*2)。
しかし、ある調査では、国内企業で人権デューディリジェンスを実施しているのは1割程度にとどまっており、課題として「具体的な取り組み方法がわからない」という理由が最も多く挙げられています(*3)。
『水産サプライチェーンにおける労働者の権利を守るための企業責任-Social Responsible Journey』は、まさに、こうした課題を解決するため、人権デューディリジェンスの基礎知識や取り組み方法をわかりやすく説明し、水産企業の実践を支援することを目的として制作しました。
本レポートの3つの特徴
1 国連「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」を踏まえた解説
人権デューディリジェンスは、国際的なガイドラインであるUNGPsに沿って実行していくことが極めて重要です。UNGPsを独自に読み解くことは難しいですが、このレポートを参照すれば、UNGPsをどう活用すればよいかを理解できます。
2 水産業界の事情に即した説明
水産業界の特徴でもある、生産、加工、輸出入と複雑で不透明なサプライチェーンは、労働者の人権侵害の温床にもなり得ます。こうした水産業界特有の事情を踏まえながら取り組みのポイントをご紹介しています。
3 オペレーションを通じた改善ポイントを紹介
人権デューディリジェンスはコミットメントを策定してからがはじまりです。社内の理解促進、サプライヤーや競合他社との連携、コミットメントに関するコミュニケーションなど、それぞれのフェーズで取り組むべきことを解説しています。
4 よくある落とし穴も網羅
監査や認証への依存、不完全なデータ収集、労働者との関与の欠如といった、見落とされがちなポイントもご紹介しています。
5 具体的な取り組みツールの紹介
具体的な取り組み方法のツールとして、RISE(読み:ライズ)「Roadmap for Improving Seafood Ethicsー水産物の倫理向上ロードマップ」についても紹介しています。RISEは、このレポートの執筆・監修したフィッシュワイズが開発したツールです。水産企業が人権デューディリジェンスの戦略を策定するだけではなく、業界特有の課題に対処できるよう支援することを目的とした無料のオンラインプラットフォームです。
企業の社会的責任に関する取り組みの基盤となる「責任ある採用」、「労働者の参画」、「海上でのディーセントワーク」をどう推進すればよいか、それぞれ8つのステップで解説しています。
欧米各国では、人権デューディリジェンスの義務化が進んでいます。日本でも2022年9月に経産省から「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が出されるなど、企業による労働者の人権尊重の動きが加速しています。
弊社は、今回発行したレポートの普及をはかり、より多くの水産業界の皆様の社会的責任の向上にお役立ていただくことで、業界全体の人権デューディリジェンス向上を進めてまいります。
*1 Global Estimates of Modern Slavery Forced Labour and Forced, Marriage, 2022, p1,2,32 https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---ed_norm/---ipec/documents/publication/wcms_854733.pdf
*2 ILO indicators of Forced Labour,2021
*3 2022年度|ジェトロ海外ビジネス調査 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査,2023,p26,27