ロンドン五輪に考える水産業のサステナブル改革

ロンドン五輪に考える水産業のサステナブル改革

東京五輪の調達基準(案)が2016年12月末に発表され問題視されています。

(調達基準(案)の問題点ついてはこちらのブログをご参照ください。)


「誰もついて来れないような高い目標を設定しても意味がない」と考える組織委員会と「世界中が注目する五輪を機会に日本の水産業に復活の兆しを!」と願う水産関係者。現に過去二大会では水産物の調達基準に厳しい条件を設け、水産業のサステナブル改革に成功し、大きなレガシーを残しています。


今回は五輪の水産物調達において新しいスタンダードを作り上げた2012年のロンドンオリンピックに焦点をあてます。


明確な調達方針

ロンドン五輪の食材調達方針(Food Vision)に記載された水産物の調達基準は簡潔明瞭。


①資源が枯渇しているものは取り除き(Exclude the worst)、②環境に良いものを推奨し(Promote the best)、③その他は改善していくこと(Improve the rest)。

  1. 英NGO・Marine Conservation Society(MCS)の”Good Fish Guide”にて”Fish to Avoid”にリストされている魚種は調達を禁止する。
  2. MSC認証、英MCS”Good Fish Guide”の”Fish to Eat”にリストされている魚種のこと。

  3. 資源状況、IUU漁業対策、産卵期の考慮と組織的なトレーサビリティーの追求を行うこと。


このように何が良くて、何が悪いのか、とても分かりやすい調達基準をロンドン五輪の組織委員会は作成しました。一見シンプルに見えますが、1,400万食という膨大な量の食事を短期間で提供することを考慮すると、かなり攻めた内容とも言えるでしょう。しかし「史上最も環境に配慮した大会」を大々的に掲げたロンドン五輪はこの目標を達成します。



NGOとの連携に見る成功の鍵

ロンドン五輪組織委員会は企業が積極的にMSC認証を取り入れられるよう、消費者間での認知度の向上を目的とし、オリンピック観戦者が集まるフードコートや選手村、あらゆる場所でメニュー上にMSC認証のロゴを取り入れました。小さいスペースですが、何千万人の人が集まる国際イベント会場、広告効果は抜群です!そして組織委員会の活動と並行して行われたのがNGOの活動。英サステインのプロジェクト、Sustainable Fish Cityは企業がサステナブルシーフードを積極的に取り入れられるよう、5段階の公約**を設け署名を促しました。第1段階目は「持続可能な水産物の調達を行います。」と宣言するだけ。そこから少しずつステップアップしていくことで企業は確実にロンドン五輪の調達基準を達成できる仕組みになっています。



メニューに掲載されたMSC認証のロゴ


そしてこの公約に一番に賛同したのがロンドン市長。「ロンドンをイギリスで一番のサステナブル・フィッシュ・シティーに!」と、積極的に活動に参加、学校や公営施設へのサステナブルシーフードの導入や、企業や団体に公約を促しました。その後活動は広がり、オリンピック開催前までに、大手スポンサー企業や団体を中心に25の公約*が集まりました。このSustainable Fish Cityプロジェクトは五輪のレガシーを継承する活動(Food Legacy Program)として組織委員会からも高く評価されました。



ロンドンレガシー

Sustainable Fish Cityの活動とそのレガシーは五輪以降も広がりを見せ、イギリスのサステナブルシーフード市場は急速な成長を遂げています。(2016年Sustain調べおよび2015年IOC発行The London 2012 Food Legacy: Updateより)


イギリス全土でのサステナブルシーフード提供率:

70%のNHS(国民保険サービス)の病院(イングランド、ウェールズ地域は100%!)

65%の学校にて推奨、内25%にて提供

75%のロンドン行政区内の学校

31%の大学

30%の政府、公営施設(刑務所、軍隊など)にて、年間400,000人分、金額にして1,700万ポンド


他にもこんなところで広がっています!:

大手企業の社食(ブリティッシュ・エアウェイズ、バークレー、コカコーラ、デロイト、グーグルなど)

イギリス屈指の観光スポット(大英博物館、ロンドン動物園、ロンドン自然史博物館)

大手ケータリング会社の半数以上がサステナブルシーフードを採用!

16の都市が”Sustainable Fish City”の公約にサインし、活動中!


その結果……

年間200,000,000食以上の需要が誕生!


オリンピック後、企業の社食などを手掛けるケータリングサービス会社が新しいスタンダードとして積極的にサステナブルシーフードを取り入れたことにより、一般企業の間にも広くサステナブルシーフードが浸透しました。ロンドンに続いたリオ大会も2013年にMSC/ASCと協定を結び、積極的な認証取得の呼びかけとサポートの結果、70トン、約350,000食のMSC/ASC認証の水産物が提供が実現しました。まだ正式なレポートは発行されていませんが、今後サステナブルシーフードが市場で広がっていくことは確実でしょう。


衰退する水産業を活気づける起爆剤としても、オリンピックはまたとない大きなチャンスです。「現状維持」に留まり衰退の一途を辿るのか、それともオリンピックを機に日本の水産業を復活させるのか…調達基準が正式に発表される2017年は水産大国日本の今後を占う重要な年になりそうです。


*

オリンピックパートナー: アディダス、ブリティッシュエアウェイズ、チャンネル4、コカ・コーラ
オリンピックプロバイダー: エアウェーブ、デロイト、ユーロスター、ジョン・ルイス
ケータリング: Baxter Storey, ISS Food & Hospitality Service, Restaurant Associates
ホスト: バークレー銀行、シティオブロンドン自治体、タワーハムレッツ区、グリーンウィッチ区、One Great George Street
政府:国際開発省、文化・メディア・スポーツ省、環境・食糧・農村地域省、ロンドン市長
ステークホルダー: ロンドン警視庁
その他:テムズ・フェスティバル、ロイヤル・アルバート・ホール、テムズ・ウォーター、ポッターズ・フィールド(公園)

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Step.1 持続可能な水産物の調達を行うことを公約し発表する。
Step.2 自社の水産物の持続可能性について評価、見直しを行う。
Step.3 オリンピックの調達基準を目安とし、持続可能な水産物の調達を行う。
Step.4 持続可能な水産物を使用/提供していることを顧客、サプライヤー、ケータリング、従業員、ステークホルダーに積極的に公表し、MSC認証のCoC認証を取得し透明性を確保する。
Step.5 持続可能な漁業と調達をサポートし、Sustainable Fish Cityの活動を広める。


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