どうなる?東京五輪調達基準〜マーケットからも上がる疑問の声〜

どうなる?東京五輪調達基準〜マーケットからも上がる疑問の声〜

2016年12月末に東京五輪の水産物調達基準(案)が発表されました。招致活動時にも「環境を優先した東京大会」を全面に打ち出し、「市場最も環境に配慮した大会」をスローガンに掲げた2012年のロンドン五輪のレガシーを受け継ぐことが期待されました。しかし、東京での開催が決定し、水産物の調達基準を見てみるとロンドン、そしてリオと比較すると大幅に基準が下げられ、IUU漁業への対策やトレーサビリティーの構築など基本的な「国際基準」について明確に記載されず曖昧な表現に留まる結果となりました。


シーフードレガシーではこのような問題点の指摘と改善案をまとめ、年末に発表しました。

(東京五輪水産物調達基準の問題点についてはこちらのブログをご参照ください。)


今回はこの水産物調達基準(案)に対して各所から上がった声、そして多くの疑問が残る五輪推奨の水産物のエコラベルについて考えます。



日本基準のエコラベル

まず、今回の調達基準(案)の大きな問題点は、「五輪を機に日本の水産業を国際基準に成長させる」ことはそもそも触れられておらず「国際基準が高いのならば、日本でも達成できる水準まで基準を下げよう」という風潮にあることです。つまり「現状維持」の調達基準であり、オリンピック以降に残るレガシーは国際的な評価を得ることは難しいでしょう。


その風潮が顕著に見られるのが推奨エコラベルについて記載された調達基準案の第3項目です。国際的な信頼とカバレッジを持つ水産物の認証システムとしてロンドン、リオ大会ではMSC/ASC認証が採用されました。しかし、東京大会で第一に挙げられた推奨エコラベルは国産のMEL/AELです。MEL/AELの問題点はこちらでも記載していますが、現行のものは評価基準や審査過程で 不透明な部分が多い上、水産庁の外郭団体が審査・認定を行うなど、第3者機関の審査を基本とするFAOの水産物のエコラベルガイドラインには満たない部分が多くあります。現状、MELは絶滅危惧種に指定されたクロマグロの産卵群を巻き網で漁獲する漁業にも認証ラベルを発⾏しています。これは「持続可能な⿂とそうでない⿂を区別する」という認証プログラムの精神に反するものであり、国際的な注⽬が集まるオリンピックの場で⽇本ブランドの信⽤を損なう原因になりかねません。


これにも関わらず、農林水産省は調達基準(案)発表以前に「国際基準で日本ブランドをアピールできるエコラベル」とし、認証の拡大を目指し、25,000,000円の認証取得支援予算を設けています。この予算は既存の国際基準であるMSC/ASC認証取得には適用されず、国際的に評価のあるMSC/ASC認証取得を目指す漁業関係者にとっては不公平と言えるでしょう。


取り残される日本

世界のサステナブルシーフード市場は通常の水産業界の約10倍のスピードで急成長しており、世界の漁獲量の約1割はMSC認証と言われています。現にここ数年、日本国内のマーケットでもMSC/ASC認証は急速な広がりを見せています。サステナブルシーフードのコンセプトが広まり始めた今の日本において認証やエコラベルの意味が正確に社会に伝わることは重要であり、スタンダードレベルが現時点では大きく異なるMSC/ASCとMEL/AELが混在しマーケットの混乱を招く恐れもこのままでは懸念されます。


決して国産のエコラベルが悪い、という訳ではありません。2012年のロンドンオリンピックでもイギリスのNGO、Marine Conservation Societyの運営するレイティングシステムがイギリスの水産資源管理や取り組みに対応している、と評価され採用されました。サステナブルシーフードにおいて重要なのは透明性のあるトレーサビリティーやトランスパランシー(透明性)であり、複雑な日本の漁業形態に特化しているとはいえ、評価基準や審査過程に不透明な部分の多いMEL/AELが「国際基準」として評価されるためには大幅な改善が必要となります。


また2012年のロンドンオリンピック食材調達基準(Food Vision)のアドバイザーも、この日本の調達基準は「企業が持続可能な調達を行う上で何をすればいいのかが分かりにくい上、何を持って評価するのかが明確でない。」と問題点を指摘しています。


オリンピック過去2大会と比較しても日本は水産物の種類も量も多く、これ全てに認証を、というのはなかなか難しいものがあります。水産大国だからこそ直面する難しい問題ではありますが、国際的な注目が集まるオリンピックという大きなマイルストーンで「現状維持」に留まることは衰退する日本の水産業が更に世界から遅れをとることを意味します。3年後のオリンピックまでに認証取得が間に合わないとしても、これを機に取り組みを開始するという前向きな姿勢が必要であり、それを公平に支援する国のサポートが求められます。


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