第5回ワークショップレポート:持続可能性への挑戦 – FIP/AIPから見出す新たな価値
シーフードレガシーが主催する第5回目のワークショップ「持続可能性への挑戦:FIP/AIPから見出す新たな価値」が5月22日(水)に行われました。今回のワークショップでは、漁業・養殖漁業改善プロジェクト(FIP/AIP)に焦点を当て、プロジェクトがなぜ今世界的に広がりをみせているのか、そもそもどのようなことをするのか、という概要から、実際にFIP/AIPに取り組む企業のメリットや課題、そしてFIP/AIPをサポートしている海外NGOから海外での広がりを紹介いただきました。今回は小売やフードサービス企業の水産バイヤーの参加が目立ち、日本でも実際に調達/販売が広がる可能性が高まりを実感できる機会となりました。(以下、敬称略)
株式会社シーフードレガシー 取締役副社長 村上 春二
初めに、FIP/AIPを会場内で知っている方挙手をお願いしますとの問いかけに、会場の7~8割が手を挙げました。
FIP/AIPとは、利害関係者が一丸となって漁業の持続可能性を向上するプロジェクト。現在、世界の漁獲量の約9.3%がFIPと報告されており、その数は2014年より3倍に増加しています。次に、東京湾スズキFIP、那智勝浦ビンチョウマグロ延縄FIP、宮城女川・銀鮭AIP、北海道苫前樽流し漁・ミズダコFIPの国内事例を発表し、それぞれの進捗や改善点を具体的に挙げ、漁業者だけではプロジェクトは成立せず多様なステークホルダーの参加が必要であり、その中で特にマーケット企業に求めることとして、以下の具体例を提示しました。
- 自社の水産物調達方針にFIP/AIPを記載する。
- MSC/ASC認証商品の取り扱い拡大の為、自社が調達している水産物の生産者と共にFIP/AIPに取り組む。
- FIP/AIPに取り組んでいる生産者から調達をする。
- サプライチェーン上にいる会社、関連会社、同業他社などと協力して、一つの地域のFIP/AIP支援をする。
日本生活協同組合連合会 商品本部 本部長スタッフ サステナビリティ戦略担当 松本 哲 氏
調達の指針となる「水産物調達の考え方」を2017年7月にを策定し、2018年度の日本生協連水産部門CO・OP商品供給金額においてMSC/ASC認証商品が19.3%(供給金額が52.2億円・品数78)を締めるなど、積極的な調達改善を行なっています。啓蒙活動にも力を入れており、サステナブル・シーフードを消費者に伝えるツールとして、カタログや動画で店舗水産売り場での丁寧な説明を行った結果、MSC/ASCラベルの認知を買ったことがある人が全体の2割、知っている人が1割の数字まで増加していることを紹介いただきました。
また、日本生活共同組合連合会では水産部門の供給でMSC/ASC等の認証品を2020年度までに20%以上にする目標を持っており、目標達成にためにFIP/AIPの支援も行なっています。
主力取引先の一つであるインドネシア BOMAR社とWWFジャパン、WWFインドネシアとの協働で立ち上げたブラックタイガーのAIPプロジェクトについてもご説明いただきました。資源的にも事業的にも重要なものだという認識からプロジェクト立ち上げ、生態系・生物多様性の保全、及び持続可能な地域住民の生計確立と水産物の生産・消費を目標に掲げています。更には、2019年3月21日より、「ブラックタイガー養殖業改善協力金」をスタートし、ブラックタイガーを使用したコープの対象商品を1点ごとに3円を積み立て、AIPに寄付するという枠組みも構築されています。今後の目標として、1プロジェクトで終わるのではなく、国内も視野に入れながらFIP/AIPを増やしていくことを主張しました。
株式会社ヤマサ脇口水産 新規開拓営業部 部長 岡本 直樹 氏
創業120年間事業が存続できたのは全てマグロのおかげであり、その資源を守るための違法な漁業由来のものや、30キロ以下のクロマグロは取り扱わないなどを掲げた調達方針を発表。昨年のシンポジウムで登壇されたHANA GROUPのジョシュ大西様の講演のなかの言葉を借りて、資源のことを真摯に考えて事業をやり続ければ、事業もサステナブルになるという信念の大事さを主張。日本でも、FIPのビンチョウマグロが、小売やフードサービスなどにも供給が広がっており、今後もマーケットからの要望を期待しているということをお話されました。
Sustainable Fisheries Partnership (SFP)
Global Tuna Director Tom Pickerell 氏、Kathryn Novak 氏
SFPの概要と、マクドナルドやウォルマートやイギリスやスペインの小売企業などと持続可能な調達方針作りなどの作成について協働していることを説明。協働には具体的に以下の4つのステップがあります。
- 持続可能性への公約を策定
- 調達の分析を実施
- 持続可能性に関するリスクを特定する審査報告書を作成
- サプライチェーンを通じた持続可能性に向けた継続的な改善モデルを支援
次にターゲット75プロジェクトについて説明。ターゲット75とは、2020年までに、主要セクターにおける世界の水産物の生産量の最低75%を持続可能、あるいは定期的で検証可能な改善が行われているものにする、という取り組みで、世界各国の大手水産企業からも賛同を得ている国際規模のプロジェクトです。クライテリアには認証水産物の他、FIP/AIPも含まれており、企業は目標達成へのサポートすることを公約する他、積極的な改善を行うサプライヤーとの取引、同業者および競合他社の参入に働きかけるなど、様々な方法でターゲット75を支援することが可能です。
SFPは今後の目標を、主要サプライヤーのSR*参入やFIP/AIPの開始を積極的に促していくこと、と紹介した上で、ロンドンオリンピックに調達方針アドバイザーとして関わった経験を持つピケレル氏は、ターゲット75はSDGs14番への貢献や、オリンピックレガシーを残すことにも繋がることを強調しました。
シーフードレガシーでは、国内外の幅広い知見をもつ専門家をお招きし、サステナブル・シーフードをビジネスの発展に活かしたい企業の皆様向けにワークショップを毎月開催しております。
次回の開催は7月を予定しております。
詳細・お申込はこちらから:https://seafoodlegacy.com/workshop/
皆様のご参加をお待ちしております。
(文:松井大輔)