第7回ワークショップレポート:「企業のサステナブル調達における認証制度の活用とGSSIの進捗と今後について」
2020年3月3日にウェビナー「企業のサステナブル調達における認証制度の活用とGSSIの進捗と今後について」を開催しました。当初はGSSIのHerman Wisse氏を東京にお呼びしワークショップの開催を予定していましたが、新型コロナウイルス感染症の影響により急遽ウェビナー形式に変更。それでも70名強もの多くの皆様にご参加いただき、改めてビジネスセクターからの本件への関心の高さが伺えました。
GSSI (Global Sustainable Seafood Initiative)は、世界の水産エコラベル認証がFAOのガイドラインに準拠しているかどうかを認定するベンチマークツールを運営するプラットフォームです。これまでMSC、ASC、BAP、RFM認証など8つの認証が認定され、昨年末にはアジアで初めて、日本のエコラベルMEL (Marine Eco-Label Japan Council) 認証の漁業規格Ver2.0、流通加工規格Ver2.0、養殖規格Ver1.0が認定されました。
GSSI認定は東京オリンピックの「持続可能性に配慮した調達コード」にも組み込まれており、その認定を受けたMEL認証商品の調達を検討する企業も出てきています。そこで今回のウェビナーでは、持続可能な水産物調達の重要なツールとなる認証の意義や、その認証を認定するためのベンチマークオーナーとしてのGSSIの活動を知ることで、より効果的に認証制度を活用してもらうことを目的に現状整理を行いました。
認証は調達の目的を達成するツール
まず弊社代表取締役社長 花岡 和佳男が「水産物調達改善ツールとしての認証制度」と題し、サステナブル・シーフードの調達、そして水産認証の意義について説明しました。
サステナブル・シーフードは世界的な水産資源の減少、マイナス成長を続ける日本の水産業が復活し、健全な社会・環境を作るために必要不可欠なものです。また、先行きが不透明な調達はビジネスにとって大きなリスクとなるため、世界中の水産業界ではサステナブル・シーフードに関する取り組みが活発化してきています。欧米では10年ほど前から持続可能な調達方針の策定、実施が進められ、特に北米では小売企業の92%がNGOなどと協働し取り組みを進めるなど、サステナブル・シーフードが主流化してきています。
サステナブル・シーフードに関する取り組みを行う組織のネットワーク、Conservation Alliance for Seafood Solutions による「持続可能な調達に関する取り組みの6ヶ条」
日本でも近年小売企業などで認証水産物の積極的な調達が進められていますが「認証商品数の増加に注力する」段階から、「より本質的なサステナブル調達を目指す」段階にシフトするためには、明確な調達改善目標と改善計画を策定することが求められ始めています。認証はあくまでサステナビリティを担保するツールの一つであり、企業にはそれぞれの目的に適したツールを選ぶ責任と、選んだ理由を説明する責任があります。そのためにまずは各ツールを熟知することが不可欠です。同時に、全てにおいて完璧なツールが存在しない中、認証制度および実際の生産現場の改善に積極的に参画する意識も必要となってきます。
ベンチマークツールも認証も常に改善していくもの
次に、GSSIのHerman Wisse氏が「GSSIの近況とMEL認証 Ver2.0(バージョン2)の認定プロセス」と題し、GSSIの概要、そしてMEL認証Ver2.0の認定プロセスについて説明しました。
GSSIは「認証水産物の普及と供給を安心して行える様にし、認証スキームの改善を促す」ことをミッションとして活動しており、2015年にFAOのガイドラインを元に独自のベンチマークツールを開発して以来、5年間で9つの水産エコラベル認証を認定してきました。漁業や養殖業などの独立した専門家が評価に携わっていること、そして認定を受けてからも継続したモニタリングがなされることが大きな特徴となっています。
今回のMEL認証の認定は、認証スキームオーナーであるマリン・エコラベル・ジャパン協議会からの申請の元、2016-2017年に予備審査を実施したのが始まりです。予備審査で明らかとなった課題を解決し、2018年に認定審査の申請後、第三者専門家による調査、ベンチマーク委員会によるレビュー、そして2019年7月に行われたパブリックコメント期間を経て、同年12月に運営委員会により認定されました。Wisse氏はMEL認証に関するパブリックコメント(7組織119件)の中から特に指摘の多かった運用の実効性とロゴによる混乱の2点に関して、GSSIの見解を述べました。
課題1:運用の実効性
MEL認証が予備審査以来変更を重ねてきた結果、最終的な認証の形(MEL Ver2.0認証)になってからの審査報告書はこれまで1つしか存在しないため、運用の実効性が疑問視されました。これに対しGSSIは、最低1漁業(養殖業)に対する審査が行われていることを認定条件としているため、これを満たすと判断しました。ただし、通常1年半後に、実際の現場で認証基準が適用されているか、MEL認証がGSSIの要素を満たしているかなどパブリックコメントを含めた上でなされる判断を短縮し、1年後にすることを条件としました。
課題2:ロゴによる混乱
GSSIの認定を受ける前のMEL認証漁業規格Ver1.0(通称バージョン1)と今回GSSI認定の対象となったMEL認証漁業規格Ver2.0のロゴが酷似しているためマーケットの混乱を招くのではという懸念が指摘されました。GSSIでもこれをリスクと判断し、Ver1.0と2.0の違いを明示する、2021年の1月31日までのVer1.0から2.0への移行期間中にv1を増加させないなどの措置を求めました。
さらにGSSIでは現在、ベンチマークツールの基準自体の見直しを行っており、新たな基準が2021に立ち上がる予定です。これまで認定してきた認証も再度審査されることになります。
花岡とWisse氏のプレゼンテーションの後は、活発な質疑応答が繰り広げられました。日本のシーフードビジネスセクターが今のMEL認証をどう評価すればいいかという質問に対し、花岡は「どのツールを選ぶかは各企業の目的次第。GSSIもMELも完璧ではない中、GSSI認定を目指し改善を続けてきたMELの成長は素晴らしいもの。今回のMELのGSSI認定はまだ実質『条件付き』の状態だが、この日本初の水産物認証を誰からも文句を言われない形でグローバルスタンダードなものにしていくために、ビジネスセクター全体で成長を支援することが鍵」と回答しました。
持続可能な調達に興味があるが何から始めて良いかわからないなど調達やサステナブル・シーフード全般についてのご相談、ご質問がございましたらお気軽に弊社までお問い合わせください。info@seafoodlegacy.com
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