CEOブログ:水産業成長産業化やSDGs14の達成に加速 「特定⽔産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」の成立

CEOブログ:水産業成長産業化やSDGs14の達成に加速 「特定⽔産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」の成立

皆さんこんにちは。シーフードレガシーCEOの花岡和佳男です。

違法・無報告・無規制(IUU)漁業による漁獲のおそれが⼤きい⽔産物の輸⼊・流通を防⽌するための「特定⽔産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」が、2020年12月4日に国会で可決・成⽴しました。世界有数の水産市場国である日本が国際的責任を果たす一歩であり、またルールを守る事業者が正当に評価される国内市場を形成する礎でもある新法の成立を、⽇本政府による⼤変望ましい動きとして歓迎します。私はIUU漁業フォーラムのメンバーとして、また内閣府規制改革推進会議農林水産ワーキンググループ特別委員及び水産庁漁獲証明制度検討会委員として、この法制化に関わってきたこともあり、ひときわ嬉しく感じます。

TSSS2020で水産庁が「特定⽔産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」を解説


日本に迫るIUUリスク

国内外の規則を遵守せずに行われるIUU漁業が、世界の⽔産資源の持続可能な利⽤や海洋⽣態系の保全に深刻な影響をもたらす脅威として、いま国際的に撲滅が求められています。世界全体の漁獲量の最大31%が違法や無報告で漁獲されたものとの推計が報告されており、2015 年の国連サミットで採択された持続可能な開発⽬標(SDGs)の目標14「海の豊かさを守ろう」では、ターゲット14.4 において「過剰漁業や違法・無報告・無規制(IUU)漁業及び破壊的な漁業慣行を終了し、科学的な管理計画を実施する」と定められています。

IUU漁業は遠い世界の話ではありません。日本周辺でも、北朝鮮海域や日本の排他的経済水域内にある大和堆周辺等で行われるスルメイカ漁において、中国船籍による史上最大規模の違法操業が発覚し、日本海におけるイカ資源の激減が深刻視されています。また太平洋側でも、近隣諸国の船籍によるアカイカやサンマ等のIUU漁業や乱獲が指摘され、いずれのケースにおいても日本の漁業者や加工流通業者が被害を被っています。

更に、これら日本周辺海域で違法に漁獲された水産物は、周辺諸国に陸揚げされた後、合法に獲られた他の水産物と混ざって日本市場に輸出され、日本で消費されている可能性があるものも多々あります。例えばウナギは日本消費量の約半分もが密漁、無報告漁獲、密輸などの違法行為を経ているとされており、日本市場が違法行為の温床になってしまっています。全体を見ると、日本で消費される水産物の約半分を占める輸入水産物のうち、最大36%にIUU漁業に由来する可能性があるとの報告がされています。


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Global Fishing Watchのページ下部、図表ファイルより改変


水産庁漁獲証明制度検討会における法制化の動き

2019年の夏に始まり定期開催されてきた水産庁漁獲証明制度検討会では、水産業界の多様なセクターから複数の方々が委員として集まり、議論が交わされました。この検討会には国際環境NGOの参加もあり、私はNGOと業界の間の位置から議論に加わることができました。サプライチェーンの川下で国際視点でビジネスをされる複数の委員が、日本でもIUUリスクへの対策が必要との認識をお持ちだったことが印象的でした。

一方で、生産者に近いところに位置する委員の方々は、当然、現場の負担に慎重でした。そのような声を直接伺い、負担を生産現場だけでなくサプライチェーン全体で吸収する仕組みづくりが重要であることや、負担軽減の鍵がIoTやAIを駆使するスマート水産業にあることを、深く理解しました。

法律成立の目処が半年以上も延期された際は肝を冷やしましたが、座長や事務局の想いや調整が光り、新たにできたその時間を、国内事情や欧米事例をより深く知る時間とすることができました。トレーサビリティにおける議論も深まり、異なる意見が徐々に一つに紡がれていきました。


内閣府規制改革推進会議農林水産ワーキンググループにおける法制化の動き

より多様な専門性と包括的な視野を持つ委員が集まる内閣府規制改革推進会議農林水産ワーキンググループでは、複数回にわたって水産庁長官から漁獲証明制度検討会の進捗をヒアリングし、状況に応じて改善要求を行いました。

前述の水産庁漁獲証明制度検討会では国産水産物の流通ばかりに焦点が当てられ、輸入によるIUUリスクについて議論が深まることはほぼありませんでした。しかし、近隣国船籍の日本周辺海域での違法漁業や乱獲が日本の水産業に与える被害が次々と可視化されると、この制度への関心や期待が一気に膨んでいきました。内閣府規制改革推進会議農林水産ワーキンググループで委員からの指摘が相次ぎ、そのバランスが修正されていきました。

また最近の会議では、この度の法制化に賛同した上で、ネクストステップで具体化すべき漁獲等情報の収集や伝達の手段について、「押印が原則廃止されデジタル庁が発足する時代に新法成立により紙でのやりとりが増えるなんてことは間違ってもないように」との強い指摘が入り、デジタル化に向けた強力な方向づけがなされました。オンライン会議でしたが、画面越しに水産庁長官が頷かれていたのを見て、心強く感じました。



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韓国海域を通過する中国船籍の漁船


IUU漁業対策フォーラムにおける法制化の動き

一方で、シーフードレガシーを含む6組織が加盟するIUU漁業対策フォーラムは、この法案が形骸化しないよう、また法制化がスムーズに進むように、水産庁への共同提言書の提出、記者を対象とした勉強会の開催、関連イベントの運営、関係者への情報提供など、国内で様々な活動を展開してきました。

また、強い国際ネットワークを活かし、EU、US、アジア諸国の政府やNGO等に対して、日本のこのイニシアチブへの支援と国際連携体制の構築について働きかけを続けてきました。世界2大水産物輸入市場であるEUとUSは、すでにIUU漁業由来の可能性のある水産物の輸入を規制する制度を導入しています。今回ここに世界第3の水産物輸入市場である日本が加わったことで、世界の水産市場の半分強がIUUリスクの排除に動くことになり、国際市場からIUU漁業が蔓延る国や地域へ向けた強いメッセージの発信が可能になりました。

今回の法律成立が決まった12月4日、IUU漁業対策フォーラムは「『特定⽔産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律』に関する共同声明 」を発表し、公平で明確な基準に基づく対象⿂種の選定や、電⼦化による事業者負担の軽減及びトレーサビリティの推進など、ルールを守る事業者が国内市場で正当な評価を受けるためのネクストステップを提案しました。

『特定⽔産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律』に関する共同声明


IUUリスク対策のネクストステップ

様々な局面を乗り越え、法律成立のこの日を迎えることができたことを、心より嬉しく思います。関係者の皆様、本当にお疲れ様でした。

とはいえ、この新法成立はまだ最初の一歩。これから実施までの2年間、対象魚種の選定基準、漁獲情報の報告項目、情報伝達手段や水際確認手段などを一つずつ詰め、具体的で堅牢な制度にしていく、さらにセンシティブなプロセスが待っています。一部の利害関係組織と密な場で調整してゆくのではなく、現場を含むマルチステークホルダー、特に未来を担う若手が十分に声を上げられる公の場を作り、オープンプロセスで活発な議論が交わされることが大切だと思っています。水産資源の持続的活用を脅かすIUUリスクを排除し、ルールを守る事業者が正当に評価される国内市場の形成を目指して、引き続き貢献して参ります。


改正漁業法との両輪で、水産業成長産業化が進む

上記「特定⽔産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」の成立だけでも相当なオオゴトですが、それに加えて数日前の12月1日には、70年ぶりに大規模な改正がなされた改正漁業法の実施が始まりました。

改正漁業法の実施は、未成魚も減少する魚も競うように乱獲し、安売りを続け、水産資源も水産業従事者も減らし、大量の補助金で産業を支える、崩壊して久しい既存のビジネスモデルからの脱却の一歩だと、私は捉えています。科学的根拠と予防原則に基づく資源管理で日本周辺海域の水産資源を回復させ、それを包括的視野で計画的・戦略的・生産的に活用する、持続的に成長する産業化の始まりです。

その「改正漁業法」とこの度の「特定⽔産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」により、生産現場と流通現場の両方に未来志向のレールが敷かれ、水産業成長産業化の両輪が回りはじめます。この両輪を正しい方向に回し続けることで、特に、世界三大漁場の一つに数えられるほど豊かな生態系を育む海を自国の排他的経済水域内に持つ日本の水産界は、ひときわ大きな恩恵を受けることができる様になるでしょう。そしてこれは、不安定な世界情勢下に問われる国内食料安全保障戦略の基礎となるだけでなく、世界人口爆発による食料不足が確実視される国際社会の食卓に、豊かな未来を提供できるものになるはずです。

私達シーフードレガシーは、自らのパーパスである「Designing seafood sustainability in Japan, together」を実行する最初のマイルストーンとして、日本の生産現場と流通現場の両方に未来志向の基本的ルールが敷かれる状態を、2015年の会社設立時にセオリー・オブ・チェンジに描きました。多くの先輩方に導かれ同志と支え合い多様なステークホルダーと協働しながら、その両輪に歴史的進捗が揃う今日を迎え、祝うことができました。この先、ルールの適正な運用や精度向上への貢献と並行して、水産経済-地域社会-海洋環境の豊かな繋がりを持続させるためのルールの最大限有効な活用を、それぞれの現場で活躍される皆様と共に実行して参ります。



2020年12月4日
株式会社シーフードレガシー
花岡和佳男

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