「水揚ゼロ、販売ゼロへ」!大手国際プラットフォームがIUU撲滅を呼びかける
2021年2月16日、水産業界における持続可能性を追求する5つの主要な国際プラットフォームが共同声明を発表しました。その内容は、IUU(違法・無報告・無規制)漁業の撲滅を目指し、IUUリスクのある水産物の港での水揚げとサプライチェーンへの流入阻止に注力していく、というもので、これは水産業界史上最大の行動喚起の1つでもあります。
共同声明(英語):
https://traceability-dialogue.org/statement-on-traceability-and-port-state-measures/
共同声明(日本語):
https://seafoodlegacy.com/wp-content/uploads/2021/02/20210217_5platforms_coalition_statement.pdf
プレスリリース(日本語):
https://seafoodlegacy.com/wp-content/uploads/2021/02/20210217_プレスリリース_JP.docx.pdf
1. この共同声明で何を求めているの?
この共同声明には大きく分けて2つのことが記されています。1つ目はIUU漁業の撲滅のために5つのプラットフォームが行うコミットメント。2つ目はこのプラットフォーム群が各国政府に求めることです。その中でも今回特に強調されているのが「違法・無報告・無規制(IUU)漁業の防止、抑制、廃絶のための寄港国措置協定(PSMA協定)」の批准と実施です。PSMAは国連食糧農業機関(FAO)の主導で2009年に成立した国際協定で、IUU漁業由来の水産物の水揚げを防ぐために港の査察やその他の措置を義務付けるもの。IUU漁業に由来する水産物そそもそも水揚げさせず、そこからサプライチェーンに紛れ込むのを防ぐのが狙いです。
一つ目:5つのプラットフォームが行うコミットメント
水産物のサプライチェーンを一貫するトレーサビリティにおける国際業界基準の策定・浸透・運用や、IUU漁業の撲滅に取り組む政府への協力が、業界主導のイニシアチブとして記されてあります。
・トレーサビリティの国際基準、GDST1.0*1を水産業界とそのサプライチェーンで運用、より厳格な基準があれば業界全体で達成していきます。
・漁獲物の水揚げや積み替えが行われている港での措置や調査を強化し、さらにそのための各国政府による取り組みに協力します。また、将来的にはPSMAの基準を満たす措置が行われている港で水揚げ、積み替えが行われた漁獲物を優先して調達します。
・船舶データを掲載している公開プラットフォームが、措置の効果的な実施に役立つのかどうかを調査します。
二つ目:5つのプラットフォームが各国政府に求めること
IUU漁業の撲滅は企業だけでは達成できません。今回の声明では政府にも以下の項目を求めています。
・PSMAの批准と措置を実施し、地域漁業管理機関 (RFMO) の全てがPSMAに沿った措置を実施していることを確認する
・自国船籍のデータを2021年6月末までにFAO国際漁業船舶記録にアップロードする
・効率的に船舶情報を利用するために、漁業活動に関するデータをタイムリーに共有する
2. 共同声明を出したのはどんなプラットフォーム?
各プラットフォームの活動内容はそれぞれ異なりますが、どの組織も水産業のサステナビリティを目標として活動するマルチステークホルダーが集まる国際組織で、一部のプラットフォームには日本の企業や団体も加盟しています。
シーフード・ビジネス・フォー・オーシャン・スチュワードシップ
(Seafood Business for Ocean Stewardship、以下SeaBOS):
水産業界における世界最大手10社が集まるプラットフォーム。ストックホルム・レジリエンス・センターなどの研究機関が連携して、科学に基づいて企業が持続可能になっていくために協働しています。日本からはマルハニチロ、日本水産、極洋が参加しており、三菱商事の子会社であるセルマックも名を連ねています。
グローバル・ツナ・アライアンス
(the Global Tuna Alliance 、以下GTA):
まぐろ漁業のサステナビリティの実現に取り組むヨーロッパ主体の小売企業やサプライチェーンからなる独立組織。まぐろ類の漁獲戦略、IUU漁業由来の製品の回避、トレーサビリティ、環境、人権問題、また世界経済フォーラムの分科会でもあるFriends of Ocean Actionで定められているまぐろ類に関する課題や政府間パートナーシップにも取り組んでいます。
https://www.globaltunaalliance.com/
インターナショナル・シーフード・サステナビリティ・ファンデーション
(the International Seafood Sustainability Foundation、以下ISSF):
ツナ缶関連企業によるプラットフォーム。混獲を減らし、生態系を健全にしながら世界のまぐろ資源の長期的な保全、持続可能な利用を目指す企業、NGO、研究機関などで構成される団体。地域漁業管理機関(RFMO)と連携して資源や生態系の管理を行ったり、科学に基づいた管理方策を提言したりしています。また、FAOが2005年に発表した「水産物エコラベルのガイドライン」を満たす認証プログラムの支持もしています。
グローバル・ダイアログ・オン・シーフード・トレーサビリティ
(the Global Dialogue on Seafood Traceability、以下GDST):
WWFとグローバル・フード・トレーサビリティ・センター(GFTC)により、世界中の水産物のトレーサビリティシステムが相互運用と検証とができる新たな標準を策定することを目指して設立されました。世界中の水産サプライチェーン企業が加盟し、日本からは日本水産、日本生活協同組合連合会、味の素が参加しています。
https://traceability-dialogue.org/
国際水産物持続可能性イニシアチブ
(the Global Sustainable Seafood Initiative、以下GSSI):
FAOのガイドラインを満たし、本当に持続可能な魚のみにエコラベルを与える認証プログラムを認定する目的で発足しました。現在、MSC、ASC認証など9つの認証スキームがGSSIにより承認されています。世界の企業やNGO、FAOなどの国際組織が加盟しており、日本からはイオン、日本生活協同組合連合会、日本水産、CGCグループ、が参加しています。
(GSSIについての解説:https://seafoodlegacy.com/1516/)
これらのプラットフォームには、150超のメンバー企業・組織が加盟しており、プレスリリースによると、SeaBOSについては参加企業の子会社の数が600社にものぼるとされています。IUU漁業の撲滅に向け、まさに世界の水産業界が一丸となり、各国政府に対して対策の強化を求めています。
GSSIのスキームについて説明するGSSIのエグゼクティブ・ディレクターのハーマン・ヴィッセ氏
(東京サステナブルシーフード・シンポジウム2018にて)
3. 日本には今後どんな影響がある?
日本は既にPSMAに批准しているため、協定の内容が水揚港で適切に施行されているかが焦点の一つになってきます。水際でのチェック機能を充実させ、IUU漁業に従事した可能性がある漁船においてはその船を検査し、IUU漁業に従事した証拠がある漁船においては港の使用を拒否することで、回復を目指し改革に取り組む日本の水産業を海外のIUU漁業リスクから守ることが求められています。
ただ、日本で消費される水産物の約半分は輸入によるものですが、その中で漁船により直接運び込まれてくるものはごく一部です。主には第三国・地域で加工された品物がコンテナ船や飛行機によって運ばれてきており、この部分の対応が迫られています。今回の共同声明の最大のポイントはまさにこの点にあり、世界中の国や地域がPSMAに批准し、水際チェックを行えば、世界中の水産サプライチェーンがIUU漁業リスクから解放されます。輸入国の政府やサプライチェーン上の企業はコンテナ船や飛行機で送られてきた荷物を一つ一つ確認する必要がなくなります。
2021年2月現在、日本を含む68か国がPSMAを批准しています。APEC(アジア太平洋経済協力)の範囲で見ると、加盟する21のエコノミーのうち、オーストラリア、カナダ、チリ、インドネシア、日本、韓国、ニュージーランド、ペルー、フィリピン、ロシア、タイ、アメリカ、ベトナムの13エコノミーが、PSMAに批准しています。一方でブルネイ、中国、香港、マレーシア、メキシコ、パプアニューギニア、シンガポール、台湾の8エコノミーはまだ批准を表明していない状態です。日本の水産物輸入において、中国・香港・台湾はキープレイヤーです。このようなエコノミーにPSMAへの批准を呼びかけることが、日本に求められているもう一つの重要な役割です。
日本では、IUU漁業対策として2020年末に違法な水産物を市場に流通させないための法律「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」が策定されました。これをもって輸出国では、IUU漁業リスクの高い水産物を日本に輸出する際に、旗国政府が発行する漁獲証明書が必要になります。旗国はPSMAを批准・実施することで、責任をもって正しい証明書を発行し、日本市場に輸出することが可能になります。
シーフードレガシーはIUU漁業対策フォーラムを通じ、日本政府によるPSMAの遵守強化及び未批准政府への働きかけ、そして関連企業や組織によるトレーサビリティシステムの構築において、支援を続けて参ります。
*1 GDST:「相互運用可能な水産物トレーサビリティシステムに関するGDST標準およびガイドライン バージョン1.0」(GDST 1.0)詳細はこちら https://www.wwf.or.jp/activities/activity/4283.html