施行から1年 — 改正漁業法の意義を再考する

施行から1年 — 改正漁業法の意義を再考する

皆さん、こんにちは。シーフードレガシーCEOの花岡和佳男です。
2021年12月1日、改正漁業法の施行から1年が経ちました。



世界で急増するサステナブル・シーフード需要


今年は9月に国連食料システムサミット、10月に生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)と国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が相次いで開催されました。経済復興策に気候変動政策や生態系保全政策を融合させた「グリーン・リカバリー」の政策は、この先海洋分野においても世界各地で一層の加速を見せるでしょう。また金融セクターでも、世界の資金の流れを自然環境に良い影響をもたらす「ネイチャー・ポジティブ」に変えるための動きが活性化しており、水産分野は三大重要課題の一つに位置付けられています。

2021年の世界人口は78億7,500万人。2030年には85億人、2050年には97億人、2100年には109億人に達すると予想されています。この先、人口増加に伴う食料需要増加に応えるには、陸上生産の大幅拡大が困難な中、地球表面積の7割を占める海洋に由来する食料、つまり漁獲漁業と養殖業における生産性の向上が欠かせません。その中、世界三大漁場の一つに数えられる豊かな海洋生態系を育む海域に囲まれ、世界の水産業界に大きな影響を与える複数の国際水産企業大手が本社を連ねる日本には、この緊急国際課題を解決する大きなポテンシャルがあると、シーフードレガシーは見ています。



日本の水産業を成長産業に


かつては世界最大の漁獲量を誇った日本の水産業ですが、未成魚も減少する魚も競うように乱獲を続け、今や水産資源状態は悪化し、漁獲量はピーク時の3分の1以下、漁業従事者は同4分の1以下にまで減少しました。世界貿易機関(WTO)ではSDGs14.6にも記載されている過剰漁業やIUU(違法・無規制・無報告)漁業を助長する補助金の廃絶が議論される一方、日本の水産業は多額の補助金なしには成り立たない状態が続いています。これらのことから、日本の水産ビジネスモデルはその崩壊が指摘され、特に近年活性化するESG投融資の世界ではリスクの高い分野との見方が広がりつつあります。国連食糧農業機関(FAO)による主要漁業国の漁業生産量の将来予測を見ても、先進国・途上国を問わずほとんどの国が生産量を伸ばすなかで、日本は今後さらなる減少が見込まれる国の筆頭になってしまっています。

その中、この度の改正漁業法は、確実な実施を進めることで、衰退の一途をたどる既存のビジネスモデルから脱却する大きな一手となり得るもの。神谷崇水産庁長官は東京サステナブルシーフード・サミット(TSSS2021)の基調講演で改正漁業法のビジョン、内容、背景をお話しされましたが、根本的課題の解決を軸とする力強い未来志向性を感じました。シーフードレガシーはこの改正漁業法を、科学的根拠と予防原則に基づく資源管理で日本周辺海域の水産資源を回復させ、それを包括的視野で計画的・戦略的・生産的に活用する、持続的成長産業化の始まりを示すものだと捉えています。



新たな資源管理の推進に向けたロードマップ


水産庁は改正漁業法を実施する上で、SDGs達成目標年の2030年までに、新たな資源管理の推進によって水産資源を回復させ、10年前と同程度(目標444万トン)まで日本の漁獲量を回復することを目標に定めています。そしてその実現に向け、2023年度までに下記を含む複数の数値目標を達成する「新たな資源管理の推進に向けたロードマップ」を発表しています。


<新たな資源管理のロードマップ主要ポイント>

資源調査・評価の充実・精度向上:資源評価対象を200種に拡大。MSYベースの資源評価を行い、目標管理基準値と限界管理基準値を設定。

電子報告体制の構築:全漁業種類において大臣許可漁業の電子的報告の実装を完了し、 知事許可漁業へも順次拡大。また、400以上の主要な漁協・産地市場から産地水揚情報を収集する体制を整備。

資源管理の改善:漁獲量ベースで8割をTAC管理とし、TAC魚種を主な漁獲対象とする大臣許可漁業には原則IQ管理を導入。また残り2割のTAC非対象のものにおいては、資源管理計画から資源管理協定への移行を完了(※資源管理協定:漁業者等が資源回復の計画を作成・実施し、水産庁がその効果を検証し、計画内容と検証結果を公表するもの)。

(水産庁「新たな資源管理の推進に向けたロードマップ」より抜粋)


長期目標が設定され、それに向けての数値目標と時間軸が明確なコミットメントが作成・公開されたことに、日本の水産業の明るい未来への期待が膨らみます。まずは目標達成の先にある豊かな未来のイメージが、より多くのステークホルダーに共有されることで、このロードマップが協働のもとで確実に実施されてゆくことを願っています。



ロードマップの実現に向けて


とはいえ実際のところは、実施にあたり課題は山積みです。ロードマップの実施は始まっているにもかかわらず、来る2022年度の水産予算案は極めて近視眼的で、直近の漁業従事者の収入をいかに補助金で維持するかといった視点に偏っており、資源管理強化によって水産業の持続的な成長産業化を実現するというメッセージは、残念ながら影を潜めてしまっています。漁業従事者が大変なのは理解しています。ただ、根本的に課題が解決されるまでの時間稼ぎなのかもしれませんが、時間稼ぎばかりに注力がされれば、ますます資源の減少が加速し、回復のための労力もコストも増大することに危機感を覚えます。

・「資源調査・評価の充実・精度向上」について:持続性を担保する適切な資源管理を行うには、まずは海の上の漁業の状態だけでなく、海の中の水産資源とその生息環境の状況を、より詳細に把握することが必須です。それに加え、マルチステークホルダーが納得して資源管理に取り組むモチベーションが醸造しきれていないことが、いま直面している課題として挙げられます。その両方を前進させるために、漁業者の経験に基づく勘と科学者が弾き出すデータを争わせる構造を改め、信頼関係のもとで補い合う体制の構築が求められます。

・「電子報告体制の構築」について:情報収集→資源評価→資源管理のサイクルにかかる期間を短くすることで、資源管理の強化により回復した水産資源の状況を、よりリアルタイムで漁業管理に適用できるようになります。海の中では資源が回復してきているのに、海の上では古いデータに基づいた漁業管理により漁獲量を増やせない…といったケースをなくすためにも、また、そもそもステークホルダーが情報報告にかけている負担や、報告漏れや虚偽報告によるリスクを抑えるためにも、電子報告体制の構築が急務です。

・「資源管理の改善」について:TAC対象の拡大やIQの導入はステークホルダーにとってのメリットが大きいものであり、漁獲量の多い種から順に急がれるべきです。TAC非対象のものについては、効果の検証がされず計画内容の公表すらされないまま補助金がつけられてきた資源管理計画(2018年に確認したところ、2,000弱あった計画のうち資源状況の増加が確認されたのはわずか37%。逆に資源状況が減少したものは26%もある)が、効果が検証され計画内容と検証結果が公表される資源管理協定に移行されることに、前進を感じます。

また、約5年ごとに見直しが行われる政府の水産基本計画も、2022年にそのタイミングを迎えます。改正漁業法やロードマップがハイライトした強い未来志向性が、新たな水産基本計画でも示されることを願っています。
もちろんこの改正漁業法自体にも要改善点はまだ多くあります。今回の大改正は70年ぶりのことでしたが、これからは数年ごとの改正が求められます。その上で、「Seafood Legacy 2030 Japan Vision」を掲げるシーフードレガシーは、改正漁業法が描く日本の水産業の未来図に共感し、その実現を目指して、今後もサステナブル&レスポンシブル・シーフードを促進する事業・活動を展開して参ります。

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