CEOブログ:ボストンとバルセロナで見てきた水産業界のネクスト・フェイズ

CEOブログ:ボストンとバルセロナで見てきた水産業界のネクスト・フェイズ

こんにちは。シーフードレガシーCEOの花岡和佳男です。


今年3月にボストンで開催された北米最大の水産物展示会Seafood Expo North Americaに単独で、4月にはバルセロナで開催された世界最大の水産物展示会Seafood Expo Globalに当社COOの山内と企画営業部の高橋と三人で、参加してきました。


私にとってはパンデミック後の初の海外出張で、出入国時はPCR検査による陰性確認書やワクチン接種済証明書等の書類準備に追われましたが、両都市ともマスク制限が解除されており、約2年半ぶりとなる各地の仲間達とのリアルの再会に大いに胸が躍りました。


連日終日ミーティングが続き、会場間の移動中も多くの懐かしい仲間たちと再会し、各地のフロントランナーとの最新情報の共有を通じて、世界のサステナブル&レスポンシブルシーフード・ムーブメントの今の動きを直に体感・吸収してきました。この記事ではそのハイライトをお伝えします。




1. 企業による非競争連携が活発化-Seafood Expo North America

1-1. IUU漁業対策:トレーサビリティ・システムの設計と透明性の担保に高まる水産業界の関心


Seafood Expo North Americaで開催されたトレーサビリティ&トランスパランシーに関するセミナーに登壇し、IUU(Illegal Unregulated Unreported, 違法・無規制・無報告)漁業リスクの国内市場流入阻止を目的に日本で2022年末から施行が始まる「水産流通適正化法」を紹介しました。また、内閣府規制改革推進会議農林水産WG専門委員・水産庁水産流通適正化法検討会議委員・IUU漁業対策フォーラムメンバー等の立場からこの新法成立に携わってきた中で考える、日本のシーフードビジネス・システムの課題と展望や、世界の主要水産市場及び生産地域との連携の重要性について話しました。米国国務長官の上級顧問を務めNOAA(米国海洋大気庁)の次官補代理でもあった現The Stimson Centerシニアフェロー兼環境セキュリティプログラムのディレクターSally Yozell氏によるファシリテーションの下、現NOAA水産局で国際水産業政策の策定と調整を主導するAlexa Cole氏は米国におけるIUU漁業対策の進展と国際連携の必要性を語り、英国SEA Alliance(Seafood Ethics Action Alliance)のAndy Hickman氏は奴隷労働や人身売買など水産業界における社会課題の解決に協働する企業連携体制について説明。パネルディスカッションでは、国際サプライチェーンに信頼あるトレーサビリティ・システムを敷き透明性を担保するための国際連携やビジネス協働の在り方が議論されました。満場の会場は立見客で溢れ、IUU漁業リスクとその対策へ向けた業界からの関心の高さが伺えました。


1-2. 社会的責任の追求:米国NGO FishWiseと、日本の水産業界における社会的責任の取り組みを推進するために、覚書を締結


欧米を中心に世界の水産業は今、IUU漁業に加え、サプライチェーンにおける人権侵害・奴隷労働・人身売買などの社会課題への対策を強化しています。日本でも最近、これらの問題に関する企業や政府自治体からの当社への問合せが増えてきています。この度当社は、日本を世界有数のレスポンシブルシーフード・マーケット市場にすべく、米国を中心に約20年も前から水産関連企業の環境的・社会的責任の追求を支援してきたFishWise連携体制を構築。日本の水産業界でも人権デューデリジェンス実施体制を整え、国内水産市場に繋がる国際サプライチェーン上のすべての人々の人権が担保され、企業の運営およびその事業への投融資リスクが軽減され、消費者が安心して輸入水産物を口にすることができる状態を目指します。



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セッションの様子



1-3. NGOからビジネスへ。単体から連携へ。:環境持続性や社会的責任を追求する企業群による非競走連携体制の動きが活性化


水産分野における環境持続性や社会的責任の追求は、この分野で先行する欧米でも、かつてはNGOが求め企業が各社ごとに応える構図だった時代がありましたが、今や大手企業群が共通課題の解決に向けコアリションを組み、そのコーディネーションや活動支援をNGOや専門組織に求める形へと、変貌を遂げました。日本企業3社を含む大手国際水産企業10社が加盟するSeaBOS(Seafood Business for Ocean Stewardship)は企業コアリションの象徴的存在ですが、他にもトレーサビリティの国際基準の策定と浸透に取り組むGDST(Global Dialogue for Seafood Traceability)は今年に国際環境NGOであるWWF(World Wide Fund for Nature, 世界自然保護基金)の手を離れ企業連合体へと形態を変え、また欧米企業群がマグロ類のサステナビリティを追求するポリシーアドボカシーを行うGTA(Global Tuna Alliance)や、英国小売企業群が水産業界における人権問題の解決に向け協働するSEA Alliance(Seafood Ethical Action Alliance)等、多くのビジネス・コアリションおよびメタ・コアリション(複数のコアリションによる連携体制)が会場での話題の中心を占めました。その他にも、世界の海老事業に関わる企業経営者が集うGlobal Shrimp Forumや、魚種を問わず養殖事業を行う企業経営者を対象としたAquaculture Done Right CEO Roundtableなど、地域や課題、セクターやアプローチ等の切り口でテーマ付けされた新たなコアリションも数多く誕生しています。




2. 生存戦略としてのサステナビリティ-Seafood Expo Global

2-1. 新規市場開拓:サステナビリティやレスポンサビリティの追求は成長市場に参入するためのパスポート


今年からブリュッセルからバルセロナに会場を移し、さらに大きくなった世界最大の水産物展示会、Seafood Expo Global。5つの大ホールを埋め尽くす世界各地の水産企業ブースの多くでは、国際的に認知される複数のエコラベルが大々的に表示され、パネルや映像などでも環境持続性や社会的責任を追求する企業姿勢が積極的にアピールされていました。例えば、マグロ・カツオ類でMSC(Marine Stewardship Council, 海洋管理協議会)の認証を取得済み、あるいは取得に向け審査の過程にあるものは遂に世界生産量の50%に到達するなど、サステナブル&レスポンシブルシーフードの需要は益々拡大傾向にあります。日本産水産物を取り扱う貿易企業は、新たな商品価格向上の手立てが実質皆無とも言える国内市場よりも、生産現場のサステナビリティやレスポンサビリティの追求が付加価値として受け入れられる欧米市場に、次の活路を見出しているところがいくつもあります。ボストンやバルセロナで私達が改めて見たものは、日本の水産業界がこれからの道を定めるために、いま広げるべき世界地図でした。


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Seafood Expo Global の会場。参加者の長蛇の列ができている。



2-2. ビヨンド・エコラベル時代の到来:サステナビリティやレスポンシビリティを追求するツールはエコラベルに限らない


単にエコラベル認証商品を調達していればよかった時代が大きな節目を迎えていることも、今回の出張で感じたことの一つです。大切なのは企業理念を突き詰め、その実現のために調達方針をブラッシュアップすることであり、目的達成からバックキャストした目標数値と時間軸を明確にした行動計画を立てること。エコラベル認証はその計画を実施する上で有効なツールや指標になることはあっても、エコラベル認証自体が目的になることはないということが、会場の各所で話題に上がりました。課題によってはエコラベル認証よりも適したツールがあり、最適な組み合わせを見極めるために新たなツールの選定・構築・実施の支援をNGOや専門組織に求める、業界の新たな姿勢が伺えました。日本では目標数値や時間軸を設定せぬまま、SDGsの波に乗るべくプロモーション的にエコラベル認証商品の取り扱いを増やす企業がまだ多くある段階ですが、エコラベル認証商品による一定の解決が既に実感された欧米市場ではネクストステップとして、さらなる改善のためのサプライチェーンを一貫したこの強い”ビヨンド・エコラベル”の考えが浸透しつつあり、これがいま非競走連携コアリションが急速に主流化しつつある背景にあるのだと、今回の出張で強烈に感じました。


2-3. 日本の水産業がとるべき生存戦略:世界最大の水産物消費大国から世界最大のサステナブル&レスポンシブル・シーフードマーケット国へ


かつて世界最大の水産消費大国だった日本の水産業界は今や、海では管理不十分等による水産資源の枯渇化が進み、市場では人口減や魚離れ等の要因で市場縮小に歯止めがかからず、回復の兆しが見えない衰退の道を辿っています。抜本的生存戦略は、パーパス経営やESG投資が注目される中で日本の水産市場を世界有数のサステナブル&レスポンシブル・マーケットとして確立させ、そのバイイングパワーを生産現場のサステナビリティやレスポンサビリティ向上のインセンティブとする新たなシーフードビジネス・システムの構築にあります。その実現に向け、今回のバルセロナ出張では、前述の複数のコアリションや組織に加え、英国・スペイン・香港でそれぞれ大手小売企業群とその水産サプライヤー群がサステナビリティの定義や行動規範などを共有する非競走連携コアリションを運営するClient Earth、北米の水産中間流通業者が助成金を持ち寄り生産現場の取り組みを支援するコアリションSEA PACT、日本市場も多く水産物を輸入する南米でマルチステークホルダーによる非競走連携コアリションを運営するComepesca等とミーティングを重ね、日本での活動における戦略的パートナーシップの締結に向け、議論を深めてきました。


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SEA PACT のSam Grimley 氏(手前)と





3. 日本の水産市場を世界有数のサステナブル&レスポンシブル・マーケットに

今回、3年ぶりに再開された欧米のフラッグシップ・イベントに参加し、世界のサステナブル&レスポンシブル・シーフード・ムーブメントに新たなドライブがかかってきていることを、強く感じてきました。この先、世界各地のステークホルダーによる繋がりのさらなる回復に従い、この動きがますます主流化していくことは間違いがないでしょう。
この世界の動きを見越した上で、パーパス経営やESG投資が注目される中で日本の水産市場を世界有数のサステナブル&レスポンシブル・マーケットとして確立させ、そのバイイングパワーを生産現場のサステナビリティやレスポンサビリティ向上のインセンティブとする新たなシーフードビジネス・システムを構築するために、日本の水産関連企業及び関連ステークホルダーの皆様にぜひ提案したいネクストステップの要素(重要課題とアプローチ)及び当社の専門分野を、この記事のまとめとして以下に記しました。皆様と共に、このムーブメントを日本で一層加速・拡大させていきたく思っております。


3-1. 重要課題

  1. バイイングパワーを活用した水産資源/漁業の管理強化促進。環境持続性の担保
  2. トレーサビリティ&透明性の強化によるIUU漁業の撲滅
  3. サプライチェーンにおける人権侵害・奴隷労働・人身売買などの社会課題への対策


3-2. アプローチ

  1. 企業理念を突き詰め、その実現のために調達方針をブラッシュアップ。目標達成からバックキャストした目標数値と時間軸を明確にした行動計画を立案・実施
  2. サプライチェーンマネジメント、コンシューマーエンゲージメント、ポリシーアドボカシー等において協働する非競走連携コアリションを国内で組織・加盟
  3. 世界の主要な水産市場地域及び日本市場に繋がる生産地域に活動拠点を設ける国際非競走連携コアリションとの連携を強化・加盟


3.3. 当社のフォーカス/専門分野

  1. 主要水産関連企業に対するサステナブル&レスポンシブル・シーフードに関するダイレクト・コンサルテーションおよび非競走連携コアリションの設計・運営
  2. 主要ESG投融資機関に対するサステナブル&レスポンシブル・シーフードに関する投融資基準構築支援およびマッチメーキング
  3. 政府や国際機関に対するサステナブル&レスポンシブル・シーフードに関する政策提言および実施支援
  4. 国内外のコアリションやNGO等に対する日本のサステナブル&レスポンシブルシーフード・ムーブメントに関するコーディネーションおよびインキュベーション
  5. サステナブル&レスポンシブルシーフード・ムーブメントをオーケストレートするフラッグシップ年次イベントTokyo Sustainable Seafood Summitの開催およびオンラインメディアSeafood Legacy Timesの運営
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