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パネルディスカッションレポート:ASC認証の現状と、普及のヒントを探る

2023年5月26日、株式会社シーフードレガシーは、ヒルトン東京ベイにてASCジャパンと共同で「ASC認証水産物の拡大に向けて」と題してパネルディスカッションを開催しました。ASC認証は、責任ある養殖業に対して与えられる認証で、その養殖場で生産された水産物が、環境や社会に配慮されたものであると証明するものです。


ASC認証は、養殖業のサステナビリティを推進するツールとして、国内外の様々な企業に活用されています。今回は、養殖業の現場からホテル・レストランまで、水産サプライチェーンの様々な企業の方にご登壇いただき、ASC認証に関する取り組みや、日々の業務の実情などを参加者の皆様と共有しました。


登壇者:
伊奈佳晃氏(スクレッティング株式会社 ビジネスディブロップメントテクニカルセールス )
山地司馬氏(株式会社ニッスイ 広域営業本部 特販営業第2部 生協営業課 課長代理)
小池幸宏氏(ヒルトン東京ベイ 調理部 総料理長)
八木田耕平氏(株式会社セブン-イレブン・ジャパン 商品本部 デイリー部 原材料設備サポート部 チーフマーチャンダイザー セブン&アイグループ 環境部会 プラスチック対策チーム サブリーダー)
ファシリテーター:松井大輔氏(ASCジャパン 渉外担当)


サステナビリティを進める現場で感じること

まず、各者がASC認証に関する現在の取り組みや日々の業務で感じていることを紹介しました。
養殖飼料メーカーであるスクレッティングでは、ASCの基準に適合する飼料開発、近年は、認証取得に関する問い合わせが増えており、審査でのサポートも行っています。

ニッスイは2030年に向け、持続可能な水産資源の調達を高めていくことを掲げています。特に山地氏は、同様の目標をもつ、担当小売企業の目標達成のために、ASC認証水産物の販売と製品開発を行っています。しかし、認証商品の売り上げの低さや、CoC認証の取得がネックとなっていることを感じています。

ヒルトン東京ベイでは、ASC認証品を料理として提供し、メニュー表にもエコラベルを掲示しています。ヒルトンでは、2025年までに水産物全体のうち25%認証水産物を使用するというグローバル目標を掲げており、すでに日本・韓国・ミクロネシア地区では、2022年末時点で25%、今年4月単月で35%を達成していますが、ヒルトン東京ベイでは4月単月で79.9%、年初来74.4%を達成しました。国内の他のヒルトンでのCoC認証の取得に努めており、従業員には定期的なトレーニングも行っています。

セブン-イレブンは全国に現在21,400店の店舗があるため、第一次産業とのつながりや、地域の空洞化は事業の持続可能性に関わる重要な課題と捉えています。サステナビリティの目標である「GREEN CHALLENGE 2050」の下、グループのスーパーマーケットセクターではCoC認証を取得し、プライベートブランド「セブンプレミアム」を中心にASC認証水産物を使った商品を増やしているところです。サステナブルな商品の売上が低く悩んだこともありましたが、訴求の仕方を工夫したことで新商品が大ヒットし、それによりASC認証に対する認識も広がりつつあると感じています。


認証普及のために試行錯誤

登壇者それぞれが、取り組みに対する手応えも感じている一方、コストや普及の難しさといった課題もネックとなっています。では一体、企業ではどのような工夫がなされているのでしょうか?
ヒルトンの小池氏は、コスト削減のために原料を廃棄せずに無駄なく使ったり、サプライヤーと連携して安価な食材を探す努力をしているそうです。

セブン-イレブンの八木田氏は、認証基準が厳格化された際に社内から賛否両論あったことを明かしつつ、個人的には、最もレピュテーションリスクの高いグリーンウォッシュを回避するためのバックアップと捉えている、と話しました。また、ニッスイの山地氏は、昔から「臭い、不味い」イメージが持たれていたパンガシウスを、ASC認証(エシカル)を前面に出し、味付け味付けを工夫することで30-40代の若い層に訴求できた体験談を話しました。


それぞれが目指すサステナビリティへの道

それぞれの業種や職種の中で、工夫しながら認証製品の普及が進められている中、ASC認証に関しては今後どのように展開していくのでしょうか?

セブン-イレブンの八木田氏は、限られた地球環境でグローバル展開していくことを考えると、海を傷めずに計画的に水産物を調達し、消費者に届けられる一つの手段として、ASC認証を取得した陸上養殖の水産物に注目している、と話しました。スクレッティングの伊奈氏は、自社で現在作成している、サステナビリティのロードマップに則り、よりサステナブルな飼料づくりを目指したいと話しました。

ヒルトンの小池氏は、認証水産物の使用割合目標は達成したけれども、今後も積極的に使っていきたいとし、ニッスイの山地氏は、持続可能な水産物を長く食べ続けてもらうために、美味しさの追求と、販売を通じてさらなる啓蒙や情報の提供をしていきたい、と語りました。



レセプションで提供された、ASC認証のアトランティックサーモン


パネルディスカッションの後は質疑応答が行われ、「政府や国際機関に求めることは?」という問いには、ASC認証やCoC認証の取得にかかる費用の補助を求める声などがあがりました。

ASC認証は日本でも少しずつ広がりを見せていますが、市場に浸透するにはまだ課題が多く存在します。一社だけで突破できる課題もあるかもしれませんが、他社と協力して一緒に課題を解決していくことで、サステナビリティをより推し進められるかもしれません。



左:伊藤良仁氏(スクレッティング(株)代表取締役)、右:花岡和佳男((株)シーフードレガシー代表取締役社長)


また、この度、スクレッティング株式会社と株式会社シーフードレガシーがパートナーシップを結び、このレセプションの場を借りて覚書を締結しました。あらゆる魚種の存続が危ぶまれる中、サステナブルな海のフードシステムを確立するためには養殖が中心的な存在になると考え、その飼料の供給を担い国際規模で未来的思考のもと事業を展開しているスクレッティング株式会社と連携し、さらなるサステナビリティへの貢献をめざしていきます。(詳細はこちら

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