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北三陸から世界の海のISOYAKEを解決する。「JAPAN UNI SUMMIT vol.0」参加ブログ

皆様こんにちは。

株式会社シーフードレガシー企画営業部の高橋諒です。

2023年7月15日、岩手県洋野(ひろの)町にて開催されたJAPAN UNI SUMMIT(以下ウニサミット)(主催:一般社団法人moova、株式会社北三陸ファクトリー)と翌日7月16日のウニ祭りに参加してきました。

ウニサミットでは、ウニによって藻場が食い荒らされる磯焼けの問題に対して、岩手県洋野町での種市漁協と株式会社北三陸ファクトリーの取り組みが参加者に共有され、日本だけではなく、同じ問題を抱える世界の海でどのように多様なステークホルダーが協働して課題解決に向けてアクションができるかディスカッションが行われました。




会場に向かうバスでは参加者に対して「ウニー!」という掛け声とともに点呼が行われ和気藹々と和やかな雰囲気で始まりました。




会場は洋野町役場種市庁舎で開催され、岡本正善町長、北三陸ファクトリー代表の下苧坪之典(したうつぼゆきのり)さんのご挨拶から始まりました。下苧坪さんは30年前の学生時代によく同級生と海に潜り、生い茂る海藻をかき分けながらダイビングを楽しんでいたそうです。ところが、今の洋野町の海は、藻場がキタムラサキウニによって食い荒らされアワビ1枚すらいなくなってしまいました。洋野町の海と長い年月をかけて失われてしまった地域経済に日本の将来を重ね、地元の水産業に大きな危機を感じているとお話されました。

今回のウニサミットは、マルチステークホルダーで課題解決を行うことでより大きな問題に立ち向かっていこうといったコンセプトだったため、あえて演壇を設けず、登壇者と来場者の垣根をなくした形でディスカッションが行われました。




プログラムは、UNIversal Agenda(世界的検討課題)の全体像を共有することから始まり、全国での磯焼け被害におけるウニの影響力、オーストラリアでの実例、生産現場を見るシェフの意識についてお話しされました。北海道大学水産科学研究院の浦和寛准教授は、函館や長崎でのウニによる磯焼けの被害について実例をあげ、ウニの密度管理が藻場再生において重要だと強調しました。また、ウニの寿命は10数年から30年ほどだと言われていますが、8歳以上になると実入り改善が難しく、北海道で取れた磯焼けの原因となるウニは7歳から9歳が多かったとのことです。

日本だけでなく、オーストラリアの南海岸でも地球温暖化による海流の変化で同じように磯焼けの被害が起こっているということをSeaforest 辰巳正幸氏がお話しされました。シドニーでは一時期Crayweed(Phyllospora comosa)という海藻が激減。、ある特定のエリアに海藻を移して、再生産させてから戻すプロジェクトをニューサウスウェールズ大学の方が立ち上げ、藻場の再生に成功したそうです。今では、タスマニアでも同じ試みを行なっているとのことでした。

こうした各地の生産現場で起きる問題に対し、ルレ・エ・シャトーの日本メンバーでもある、フレンチレストランの「L'Effervescence」の生江史伸シェフは、「既存のサプライチェーンでは生産現場と最終末端がそれぞれ互いに意識せずに食べ物を生産・消費していることから、互いの環境・社会課題に目を向けられず、Volume(量)に重点が置かれたまま、Quality(質)を向上できていないのではないか」とお話しされました。

70年ぶりに大幅な改正がされた漁業法においても、水産資源の持続可能な管理が明記されたこと、海洋環境の変化に対し、従来の量を重視した生産現場に対して、量より質を追求して欲しいといったシェフの声も、複雑な水産サプライチェーンの中ではなかなか届きづらい現状があります。このような背景から、水産物を調達している中間流通や最終末端企業においても企業としてのあり方が今一度問われていると強く感じられました。

また、当日の質疑応答では、「IUU漁業由来水産物が市場流通しており、価格的にどう考えても太刀打ちできない。法整備を整えてサプライチェーンに入り込まない仕組みづくりをして欲しい」といった漁業者の方からの悲痛な叫びがあり、水産流通適正化法の魚種の拡大を求める声も上がりました。




パネルディスカッションでは、2部屋に分かれてそれぞれに異なるテーマについて話し合われました。「日本の水産業を守るためにできること」や「世界から見る海の未来」、「生産地で考える消費地の未来」、そして「海に生きる男たちが描く、藻場再生の未来」など4つのテーマについて、漁師、水産事業者、飲食事業者、研究者、ダイバー、海洋環境保護活動家、メディア、政治家などそれぞれの立場からみえる、日本と世界の海の未来について、議論が展開されました。

テーマ別のディスカッションパートでは、登壇者だけでなく、参加者ひとりひとりがUNIversal Agendaを自分ごと化し、世界の未来を豊かにするために何ができるのか、何をすべきなのか、具体的なアクションプランをグループごとに創出しました。




テーマ別ディスカッションパートで、私が参加した資源管理チームでは、フィッシャーマン・ジャパンの津田祐樹氏のもと、洋野町を日本のベンチマークに、持続可能な資源管理に向けたアクションプランについてディスカッションしました。

当日の議論の中には、「消費者にも資源管理をもっとわかりやすく理解してもらうために、見ればすぐわかるラベルを作れば良いのではないか?」、「ウニだけでなく、沿岸地域の生態系を包括的に管理をするために浜の漁師さんを集めてワークショップを開いた方が良いんじゃないか。」、「そもそも既存の国としての仕組みは共同管理についてのものがないので、仕組みを動かすためのアクションが必要なのではないか。」など興味深い意見が多く出され、非常に刺激的なディスカッションでした。当日、最終的に出した、資源管理チームのアクションプランは別途ご紹介の機会があれば改めて皆様にご共有させていただければと思います。

イベント後はひろの水産会館UNIQUE(ウニーク)に移動し、レセプションでは参加者同士で交流をしながら、洋野町のウニに舌鼓を打ちました。



東京四ツ谷の寿司店「後楽寿司やす秀」による「夏のスペシャリテ うに牧場の雲丹のリゾット」は香りと食感が良く絶品でした


また、レセプション中にテーマ別ディスカッションでグループごとに出たアクションプランを発表。来年のウニサミットまでにプランを実行するべく、全員で「誓いのウニ」をいただきました。

今後取り組みたいアクションプランで特に多かったのが学生や子供たちといった若い世代と一緒に北三陸の浜を盛り上げるイベントで、これからの水産業を担う世代に対する大きな期待を感じました。



右:私がいただいた誓いのウニ


今回のウニサミットは、さまざまな業種の方が集まり、それぞれの抱えている課題を共有した上で、どういった協業ができるのか具体的なアイデアが出てくるプラットフォームとなりました。
生産現場、中間流通、最終末端とそれぞれ個別の課題を抱える中で、課題を蔑ろにして自分たちの利益を優先することは、結果として海に大きな影響を及ぼす可能性があります。

こうした現状を変えるための議論をまず進めていくための第一歩として、非常に素晴らしいサミットだったと感じました。来年は鎌倉での開催とのことで、大変期待が高まります。



翌日のウニ祭りの様子。多くの来場者が種市のウニを堪能していました。


ウニサミットと翌日のウニ祭りに訪れ、今回特に感じたことは川上(生産現場)から川下(レストランや量販店などの消費者と触れる最終末端現場)まで、サプライチェーン全体で正しく問題意識を共有ができすることが重要だと感じました。特に、ウニサミットで議論された、ウニが北三陸の厄介者であり、藻場の再生に向けて密度管理を行うことの重要性についてなど、翌日のウニ祭りで来場した消費者が知る機会があれば、より目の前の海で何が起きている、同じ問題意識を共有することができるのではないかと感じました。

また、今回のウニサミットでは議論されませんでしたが、サプライチェーンの中流における川中(中間流通)においても、サプライチェーン上の人権侵害や、安く購買し高く販売をすることが会社として評価される構造などの社会課題があり、川上・川下の問題と一緒に取り組んでいかなければなりません。

自社の利益だけを追い求めるのではなく、ステークホルダー全体で互いの立場を理解し合い、垣根を越えて大きな問題に取り組むことが、今の水産業界に問われていることではないでしょうか。


執筆者:高橋 諒 ryo.takahashi@seafoodlegacy.com

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