catch-img

マグロ類の環境持続性と社会的責任の追求に特化した企業連携プラットフォーム「The Global Tuna Alliance」を知る

環境や社会問題の解決に向けて、日頃は競争相手である企業同士であっても、特定の領域を設定し、連携する「非競争連携」が世界で増加しています。水産分野でもさまざまな「非競争連携」が生まれており、今回はマグロ類の環境持続性と社会的責任を追求する国際プラットフォームThe Global Tuna Alliance(GTA)を例に、非競争連携を紹介します。

GTAはマグロ類の世界貿易量の32%を占める独立系の連携で、小売りやサプライチェーン企業が加盟し、問題解決に向け協働しています。同プラットフォームにおける企業連携から、日本企業にとってGTA加盟がどのような可能性を広げるのかを考えます。


開催概要

「マグロ類の環境持続性と社会的責任の追求に特化した企業連携プラットフォーム「The Global Tuna Alliance」を知る」
2023年6月28日(水)16:00-17:45 (新宿/オンライン)
講演
▽ケイシー・レイシック氏(People and Planet, Group Director /New England Seafood International)
▽花岡和佳男(株式会社シーフードレガシー代表取締役社長)
▽ガンサー・エリホルト(Global Tuna Alliance 日本担当者)
ワークショップと質疑応答(モデレーター・花岡和佳男)


GTA加盟は日本企業のサステナブル活動の評価につながる




はじめに、GTA発足当初からのメンバーである英国水産企業、ニューイングランド・シーフードー・インターナショナル社(NESI)のケイシー・レイシック氏が、GTAに加盟した背景を紹介しました。


ケイシー・レイシック氏:
NESIは英国に本拠を置く水産物の加工業者です。英国を中心に小売りや外食産業向けにビジネスを展開。事業所はSedex(サプライヤーエシカル情報共有プラットフォーム)に準拠するなど、責任ある仕入れを重視しています。

37か国から魚を調達し、マグロは日本など3か国から輸入。マグロは取り扱い魚種約20のうち30〜40%を占め、英国の全スーパーに卸すなど、NESI社にとって主要な商品です。

GTAに加盟した理由は、持続可能なマグロの仕入れには多くの課題があるからです。英国では消費者が魚を購入する際、サステナビリティが選択理由の一つになっていますが、マグロは資源管理されている業者から買い付けるのが難しいのです。

マグロは世界の海に生息し、それぞれの地域で個体群ごとに管理団体があります。タラ類のように生息域が小さく、漁獲内容に関する合意が容易な魚種と異なり、各国が利害を代表して集う管理団体での合意は簡単ではありません。ですから、利害を超えてマグロを管理できる協力体制、GTAは私たちにとって、ビジネス上必要不可欠な組織です。



GTA加盟の背景とメリットについては、2023年GTAの日本担当に就任したガンサー・エリホルト氏からも指摘がありました。


ガンサー・エリホルト氏:
GTAの立ち上げ当時、インド洋ではマグロ類の個体数が大幅に減少していました。持続可能な漁業に向け、個体数をどのように把握するかが課題でした。持続可能でない漁から得たマグロの購入は控えなければいけません。一方で一社でマグロの資源管理をするのは不可能です。

こうした背景からGTAが発足し、水産業界では初めての非競争連携が生まれました。これまでは水産業と協働するよりも圧力をかける立場だったNGOとも協力し、同じ方向を目指すことになったのです。

GTAに加盟する具体的なメリットは、まずGTAには効果的なツールが用意されていることです。マグロ漁の問題解決に取り組む際、それらツールは改善点を特定するのに役立ちます。GTAを活用することで国際的に活動するNGOとの対話で得られるような近しい視点での対応が可能になります。

また、GTAへの加盟は、社会的な評価にもつながります。顧客やステークホルダーに対してGTA独自の高いレベルの基準に準拠していると説明することができます。事前にGTAの基準をコミットすることで、NGOのレーティングでもより高いスコアが期待できます。


企業間連携で日本水産業の評価向上を



シーフードレガシー代表の花岡和佳男氏がサステナブル活動の企業間連携について話しました。

花岡和佳男氏:
2023年6月16日に香港で開催されたHong Kong Sustainable Seafood Symposium 2023で講演した際、香港の大手ホテルのシェフや調達担当が参加していました。彼らは「日本の水産物を扱いたいけれど、日本の事業者はサステナビリティの担保や追求をお願いしてもなかなか動いてくれず、扱えない」と言うのです。

水産庁による日本の水産基本計画は国産水産物の輸出拡大を方針に掲げています。しかし国内の既存の動きを見る限り、「サステナビリティが必須の欧米市場への参入は難しいけれど、そうではないアジアの市場に売り込めばよい」という方針であるように、私の目には映ります。今回目の当たりにしたアジア屈指の水産市場である香港の現実は、この日本の方針が誤っていることを示しています。日本の水産物の需要はあるのに売り込めない状況は、大きな機会損失です。

日本は世界3位の水産物輸入市場であり、世界の水産業大手100社の本社を最も多く抱える国です。非競争領域で連携が進めばインパクトは非常に大きいはずです。世界の水産大手30社のガバナンスや社会的責任に関する調査(ワールド・ベンチマーキング・アライアンス)によると、ニッスイの17位を最高に、日本企業の評価は総じて低調です。非競争領域での連携が進むなら、日本企業全体の評価が高まると予想されます。

水産業界ではテーマごとにさまざまな国際連携のプラットフォームが立ち上がっています。トレーサビリティならGlobal Dialogue on Seafood Traceability (GDST)、調達方針であればSustainable Seafood Coalition (SSC)、水産大手10社によるSeafood Business for Ocean Stewardship (SeaBOS)も発足しました。マグロに特化したGTAはそのひとつ。日本企業の参加を期待します。


最後にガンサー・エリホルト氏が登壇し、GTAの5年戦略について説明しました。サプライチェーンの様々な課題を解決するため、GTAは5年戦略を策定し「透明性とトレーサビリティ」「環境の持続可能性」「社会的責任」の3つを目標としました。


 

ガンサー・エリホルト氏:
「透明性とトレーサビリティ」には、世界基準の水産物のトレーサビリティ(GDST)、船舶の100%を対象としたモニタリング体制の確保、違法漁業防止寄港国措置協定(PSMA)に準拠しているか、といった目標が含まれます。

これらの課題に対して日本政府は一定の対応をしています。例えば電子監視(Electronic Monitoring)について、トライアル段階であるものの、水産庁がインド洋で監視カメラによる追跡を実施していると聞いています*1。また、国際的に重要な寄港国措置(PSMA)を批准。漁船の公的追跡調査を実施するなど、透明性は改善しています。

日本企業も、例えば、それまでMSCやASC認証の流通に力を入れてきたイオンがアジアの小売業として初めて世界水産物持続可能性イニシアチブ(GSSI)に加盟し、認証水産物調達の取り組みを加速させました。

「環境の持続可能性」に関する問題は、例えばサメです。GTAではサメの漁獲について、魚体を丸ごと、または少なくともヒレが魚体に付いた状態での水揚げを推奨(fin naturally attached、FNA政策)します。また、サメからヒレだけを切り離して魚体を海に投棄する漁船からは調達しないよう働きかけています。

「社会的責任」に関する目標のひとつは、労働者の適切な労働環境の担保です。各国政府に漁船で働く労働者に休暇や医療の提供、雇用可能な最低年齢を16歳とすることなどが規定されたILO188の批准を求めます。

日本はマグロの持続可能性に関して多くの取り組みを実施しています。GTA加盟はそれを広く知ってもらう機会であり、世界的企業との連携によって取り組みを拡大していくことができます。


講演の後、セミナー参加者はワークショップに参加しました。GTA5年戦略に沿った質問に対し、実施の難易度と影響力を回答する内容です。

質問の回答からは、最も難易度が高い項目に上がったのは「トレーサビリティの取得」でした。一方で労働環境や人権等の課題は取り組みやすいと考えられているという結果も出ていました。

最後に質疑応答の時間が設けられました。「GTAに加盟する際に、何らかのサポートはあるのか」との質問に対し、「日本は水産市場で重要な国なので、GTAは使用言語を英語と日本語の2言語で対応している」とエリホルト氏から回答いただきました。

マグロ漁業の持続可能性を追求する国際プラットフォームであるGTA。サステナビリティ活動で企業連携する流れが世界的に強まる中、マグロ漁業の中核を担う日本からの参加が期待されます。   


*1 https://iotc.org/documents/WGEMS/02/06

ページトップへ戻る