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イカのサプライチェーンから考える市場の課題〜求められる非競争連携〜:連続セミナー第4回 報告ブログ

連続ウェビナー「サステナブル・シーフード・ゼミナール〜環境や人権に配慮したサプライチェーンをつくるには〜」の第4回の内容をまとめました。今回は、日本での消費量が多いイカをテーマにサステナビリティの構築について考えました。


「日本市場におけるイカ産業の構造と課題」

講演:株式会社シーフードレガシー 企画営業部 髙橋諒

◆日本のイカ産業について
日本における2020年生鮮魚介類購入ランキングにおいて、イカは第5位にランクインしました。加工品など生鮮以外も含めると、その消費量はさらに大きなものと考えられます。国内においてはスルメイカ・ヤリイカ・アオリイカなどが水揚げされ、生鮮だけでなく生鮮珍味や乾燥珍味、そして惣菜など非常に多くの流通経路があります。



また、中国やペルーからの輸入量も非常に多く、この2国で輸入原料全体の75%ほどを占めています(2021年)。他にもシリアやロシア、アルゼンチンからも輸入しています。イカの種類も多く、さらには惣菜用など加工品も輸入しています。国内消費仕向量として年間約126,000tのうち、95,000t以上は輸入に頼っているとされます。このように日本のイカ市場は輸入原料に非常に大きく依存しています。
 
 
◆日本のイカ産業における持続可能性に関する動きと課題について

日本のサプライチェーンからIUU漁業由来の水産物排除を図った「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」(水産流通適正化法)」が2022年12月1日に施行されました。このうち特定第二種水産植物の対象魚種の一つとしてイカが選ばれました。理由としてはIUU漁業リスクが高く、資源状況も悪いことなどが挙げられます。

他にも改正漁業法の対象魚種8種のうちスルメイカが含まれ、個別漁獲割当(IQ)制度が導入されるなど国内魚種の持続可能性化に向けた動きが進んでいます。
 
そうした中でイカ産業にはトレーサビリティ構築に向けて以下の課題があります。



 <課題1>
加工幅が非常に大きいため、イカ原料の国までは把握できても漁場や漁船まではトレースできない

<課題2>
需要の多くを占めるスルメイカやアメリカオオアカイカなどは、漁場が複数国にまたがるため、自国のみで資源管理をすることが難しい
 
このことから、まず自社サプライチェーンからIUU漁業由来の水産物を排除すると発信した上で、NGOや専門家らと持続可能性構築に向けた協力をしていくことが必要となります。輸入原料への依存度が加速する中で、責任ある調達が求められているのです。



「グローバル・イカ・サプライチェーンラウンドテーブル」

講演:サプライチェーンラウンドテーブル ディレクター カルメン・ゴンザレス・ヴァレス氏
 
◆サステナブル・フィッシャリーズ・パートナーシップ(SFP)、そしてサプライチェーン・ラウンドテーブル(SR)モデル・グローバルイカSRについて
 
SFPは50人以上の専門家が参加し、20カ国以上であらゆる水産物の持続的な生産実現に向けて活動しているNPOです。様々な活動の中で水産業界が自発的に改善に取り組めるように行っているものが「サプライチェーン・ラウンドテーブル(以下SR)です。

これは多様なステークホルダーが共通課題の解決に取り組む非競争連携のためのプラットフォームです。漁業資源は広い地域をまたいで分布するため、業界全体としてSRの中で話し合い、解決策を見出す必要があります。

2013年頃からSRが動き始め、次第にこの活動が広まっていきました。そして次第に、地域に限るのではなくグローバルな形で進めていく必要性が生まれ、グローバル・イカSRが立ち上がりました。
 
グローバル・イカSRでは2025年までに実施する4つの戦略的な優先事項があります。

(1)  イカSRのガバナンス強化と参加拡大
(2)  イカのサプライチェーンにおける透明性とトレーサビリティの向上
(3)  科学的根拠に基づく漁業管理の推進
(4)  イカ漁における人権侵害への対処
 

◆世界のイカ漁業とIUU関連リスク

イカなどの頭足類は環境変動に影響されやすく、生物学的な漁業管理が難しいと言われています。そのためイカに特化した管理を考えていく必要があります。また、現在市場に出回っているイカは、公的に報告されているものだけでなく、IUU漁業由来のものが多くあり、これは人権侵害問題とも強く結びついています。
 

◆市場およびサプライチェーンに関連するリスク

市場における問題、それはトレーサビリティが不十分な点です。主な市場のアメリカやヨーロッパの市場では輸入規制がありますが、IUU問題のトラッキングは困難でした。アメリカでは水産物輸入監視制度(SIMP)がありますが、軟体動物は、規制の対象外であり輸入のモニタリングができません。またEUにおいては軟体動物も含めた規制ルールがありますが、その実態は不十分なものです。またデジタル化が進んでいないため、ヨーロッパ全体で照合を取れません。したがってデータのデジタル化を進める必要があります。



◆日本の水産業界への提言
・サステナビリティのコミットメントを公にし、サプライヤーや輸出入業者にも伝えること
・非競争連携を取る前の様々な段階で協力のための最新情報に触れること
・すべてのサプライチェーン関係者、レストランなどを巻き込んで規制遵守をサポートすること
 
法律や規制を整備していく過程は非常に難しいものです。そのため、政府が焦点を当てるべき分野など、規制遵守をサポートすることが大事になってきます。
 


Q&Aセッション

Q1.  グローバル・イカSRに、北米やアジアの企業が関わっているのかどうか
A1.  現在アジアの企業は未参加です。参加に興味を示しているところもあり、その場合契約等々を交わして初めて正式な参加となります。
 
Q2. 中国の影響が大きいとあったが、南米においてはIUU漁業といった問題点は深刻化していないのか
A2. チリ、アルゼンチン、ペルーは水産資源に対する懸念を示しています。ペルーでは数年前に中国の船団が無許可でEEZ内に入り、大きな問題となりました。外国船排除に向けては公式に管理する仕組みを整備しました。アルゼンチンでもアセスメントの不足など問題はありますが、対策や会議などが行われています。しかし、南米全体において公海の問題は残っていると言えます。
 
Q3. SRのメンバーに加入した場合、どのようにして意思決定がなされていくのか
A3. 定例会議の中で、基本的には全員の意見が一致するように行動提案をします。しかし、コンセンサスがなければ投票議決となり、60%以上の賛成が必要となります。
 
 
今回はイカに注目して、漁業や市場における問題点、そして今後どのように対処していくべきかなど学びました。様々な流通経路があること、広範囲に生息していることなどからサプライチェーン全体を巻き込んで、非競争連携をとって課題解決に向かって取り組むことが
重要となります。

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