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(CEOブログ)大間産クロマグロ漁獲量未報告事件 漁獲報告体制とトレーサビリティ体制の構築を急げ

シーフードレガシーCEOの花岡和佳男です。

青森県大間産クロマグロの漁獲量の一部を県に報告しなかったとして、仲卸業者の社長2人が逮捕された事件が、いま大きな注目を集めています。


日本の国際的信用の失墜が意味するもの

漁業を始める前の推定資源量と比較して資源量が2-4%程度にまで激減したことが科学委員会から指摘され、現在国際的な資源回復計画の対象となっている太平洋クロマグロの漁獲枠は、地域漁業管理機関で加盟国や地域ごとに定められており、厳しく管理がされてきました。その結果、資源量が暫定回復目標である歴史的中間値に達する見込みが高いとして、日本は同機関に対して漁獲枠の増枠を求め、2021年にはこれが合意されています。


しかし今回の事件で、クロマグロの漁獲報告および管理の監査体制が不十分な日本の実態が浮き彫りとなり、農林水産大臣が記者会見で「国際的な信用を失っていく」*1と懸念を示す事態となりました。


太平洋クロマグロの資源回復の立役者であったはずの日本の国際的信用が失墜すれば、国際会議での日本のリーダーシップは困難となり、国際交渉における説得力も弱くなり、これまで真面目に資源回復に取り組んできた事業者や行政などの努力も水泡に帰してしまいます。管理の欠落をこれ以上放置し続けることの業界へのリスクは計り知れず、一刻も早い根本的解決が求められます。


政府は不正ができない漁獲報告体制とトレーサビリティ体制の構築を 

2社からマグロを買い受けて市場で販売した静岡市の水産加工会社が「産地証明書を基にマグロを購入した。出荷元を信じるしかなく、ご迷惑をおかけした」*2と発言した通り、今の日本の水産物流通には客観性を担保する強固な漁獲報告およびトレーサビリティのシステムが存在せず、十分な監査体制もありません。これが今回の事件を未然に防げなかった主因だと私は見ています。


水産資源の持続的活用を目的に70年ぶりの大改正がなされ、2020年に施行が開始された新漁業法では、2023年度までのロードマップに、漁獲等情報の収集のために水揚げ情報を電子的に収集する体制の構築における具体的な取り組みを進めることが示されています*3。しかし電子化はおろか基本的な情報収集体制の構築すらまだできていないことが、今回の事件で明らかになりました。


また、昨年12月に施行された水産流通適正化法は、輸入水産物においては、IUU(違法・無報告・無規制)漁業により漁獲された水産物の国内市場流入阻止が目的にうたわれています。しかし国産水産物においては、許可を持たない密漁者による漁獲物の流通阻止を目的としているのみで、今回のような許可を持った漁業者の違法漁業や無報告漁業に対しては、例えクロマグロが同法の対象種に指定されたとしても、なす術がないという実態が浮き彫りになりました。


私は関連有識者会議で専門委員を務めるなど両法の策定に一部携わった身として、現状を残念に思うと同時に、新漁業法のロードマップのネジの巻き直しや水産流通適正化法の改正を含む、客観性を担保する強固な漁獲報告およびトレーサビリティ・システムと十分な監査体制の構築の手立てを、政府が直ちに打ち出すことの必要性を痛感しています。



事業者や業界団体は改善への積極的な貢献を

そもそも、天然資源に依存する水産業にとって、環境持続性の非担保はビジネスモデルの破綻を意味します。さらに言えば国際潮流は、経済活動によって生じる自然環境への負の影響を抑え、生物多様性を含めた自然資本を回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」に、大きく舵を切っています。


私たちシーフードレガシーの元には、IUU漁業に由来する水産物を自社のサプライチェーンから排除したい旨のお問い合わせが、特に国内の大手末端流通企業やその主要サプライヤー企業から、数多く寄せられています。また、私たちが運営するオンラインメディア「シーフードレガシータイムズ」の記事「水産流通適正化法施行、業界はどう見る?」には、水産業界のサステナビリティを牽引する国内ステークホルダーの皆様からの、水産流通適正化法の意義と今後の課題についての多くのコメントが紹介されています。


日本の水産業が生産構造の根本的再編を余儀なくされている中、青森県水産局長は今回の事件を受けて「マグロの水揚げから流通までを第三者が確認できるような仕組みの構築を国に求めていきたい」*4としています。


事業者や業界団体は、不正ができない漁獲報告およびトレーサビリティ・システムの構築実現を後押しし、その実現に向け同業他社やサプライチェーンを一貫した協働体制を構築するなど、持続可能性を追求する水産資源と流通管理の強化への積極的な貢献が求められます。今回明るみに出たのは氷山の一角。できない理由を挙げることに時間を費やせば費やすほど、解決は遅れ、泥舟化は進み、浮上が困難になることは言うまでもありません。


国際社会に誇れる未来の日本の水産業や魚食文化の形

私たちシーフードレガシーは、水産分野における環境持続性や社会的責任の追求において、アジア圏、ひいては世界のフロントランナーになることが、かつては世界最大の水産大国にまで上り詰めた日本の水産業や魚食文化の、国際社会に誇れる未来の姿であると考えています。


水産資源は国境や世代を超えて共有する人類のかけがえのない財産です。日本が環境持続性や社会的責任を追求する水産市場への変容を達成し、国内の水産経済や地域社会が潤いを取り戻すことで、環境持続性や社会的責任の担保を条件とする国際成長市場への本格参入に活路を開き、食料不足に苦しむ国際社会に上質なタンパク源を持続的に供給し、国際社会の未来に希望の光を灯す国になっていく。


これが、私たちが描く日本の水産業界の生存・成長戦略の根底です。その上で、持続可能性を追求する水産資源と流通の管理における国際的信用は、日本の水産物の基礎価値としていくべきもの。その実現に向け、今回の事件が今度こそ根本解決へ舵を切る機会になることを願っています。



*1 野村農水大臣 青森・大間でのクロマグロの違法漁獲に「横行すれば国際的信用失う。再発防止を真剣に検討」(Yahoo!ニュース、2023/2/10(金)配信)

*2 大間マグロ「出荷元信じるしか」/静岡の業者、無報告知らず(Yahoo!ニュース、2023/2/12(金)配信)

*3 「新たな資源管理の推進に向けたロードマップ」が決定されました(水産庁、令和2年9月30日)

*4 大間マグロ漁獲未報告、配分枠に不満で常態化か…「うわさあった」不審感じていた漁師も(Yahoo!ニュース、2023/2/12(日)配信)



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