持続可能な水産調達に向けて〜責任ある調達方針策定の必要性とは〜:連続ウェビナー第3回 報告ブログ
主催:株式会社シーフードレガシー
進行役:株式会社シーフードレガシー 企画営業部 髙橋 諒
連続ウェビナー「サステナブル・シーフード・ゼミナール〜環境や人権に配慮したサプライチェーンをつくるには〜」は、全4回を通して水産物を取り巻く環境を理解し、水産サプライチェーンの改善方法や実践方法を学べる講座です。
2022年12月1日、特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律(水産流通適正化法)が施行されました。本法律は、IUU漁業に由来する水産物の日本市場への流入を防ぐもので、EUの「IUU漁業規則」や「米国SIMP」に次いで、世界で3番目に施行された包括的な措置になります。
今回の「サステナブル・シーフード・ゼミナール」では、国際的な非営利組織の一つである「The Nature Conservancy (TNC)」の担当者を招き、IUU漁業に関する基礎知識やEUにおける昨今の動向を取り上げました。
そのうえで、「水産流通適正化法」をより深く理解し、自社でIUU漁業に由来する水産物の対策を構築する方法を提案しました。
「IUU漁業にまつわる現状と、取り締まりが必要な理由」
講演:TNCインディペンデント・アドバイザー 桑田由紀子氏
◆「The Nature Conservancy (TNC)」について
主に気候変動対策と、健全な海洋・陸地および淡水を守る活動を行っており、海洋に関連するプロジェクトは、100以上展開しています。なおTNCは、日本ではIUU漁業対策フォーラムというコンソーシアムに属して活動しています。
IUU漁業対策フォーラムは、IUU漁業由来の水産物を日本、そして世界からなくすことを目指す団体のコンソーシアム。現在は、TNCのほか、弊社、セイラーズフォーザシー日本支局などが参加しています。
◆IUU漁業について
「Illegal(違法)」、「Unreported(無報告)」、「Unregulated(無規則)」な漁業の総称。それぞれの言葉の頭文字をとり、“IUU”と表記しています。
資料提供:TNC
国際連合食糧農業機関(FAO)によると、全世界におけるIUU漁業による水揚量は、年間12,600万トンにのぼると推察されるそうです。これは、金額に換算した場合、100~230億米ドルになる量です(現在の為替レートなら1.3兆円~3.1兆円相当)。
IUU漁業を野放しにすると、不当に得られた安価な魚が大量に流通する可能性が生じ、公正な市場競争の前提が崩れてしまいます。そのため。ルールを遵守する漁業関係者を守るうえで重要になるのが、IUU漁業を取り締まる制度です。
IUU漁業についてもっと詳しく知りたい方はこちら:「何が問題?IUU(違法・無報告・無規制)漁業」
「EUにおける動き」
講演:TNC漁業政策アドバイザー エミリー・ラングリー氏
◆「EUのIUU漁業規制」が採択された年、規則に関連した動向など
資料提供:TNC
◆IUU漁業への対策を行うメリット
「EUのIUU漁業規制」の運用など、IUU漁業への対策を行うことで、水産資源が守られるだけでなく、水産業が健全なものになります。
EU加盟国の漁業事業者団体連合会である「Europeche(ユーロぺシュ)」とNGOのコンソーシアムである「EU IUU連合」は、次のような共同声明を発表しています。
「水産物が消費者の元に届くまでのルートを追跡できること。明確なルールを設け、すべての水産物のトレーサビリティを十分な要件を満たしたものにすること。これらがIUU漁業を無くすうえで必要です。また、国際的に足並みのそろった、実効性のある漁獲証明制度をオンラインで運用することも必要です」
「流通適正化法をさらに効果的なものにするために」
講演:TNCインディペンデント・アドバイザー 桑田由紀子氏
流通適正化法を漁業関係者にとって便益のあるものにするには、どうするべきか。IUU漁業対策フォーラムでも、この答えを求めて話し合ってきました。
そして2022年5月、以下のような共同声明を発表しました。
資料提供:TNC
1と2は、報告システムを効率化し、関係者の業務負担やチェックミスを減らすことなどを目的としています。3は、流通適正化法を他の制度とグローバルに連携させ、IUU漁業をより減らすことを目的としています。
IUU漁業対策の更なる改善を求める共同声明の本文は、IUU 漁業対策フォーラムのWebサイト(https://iuuwatch.jp/news/joint_statement_20220523)からご覧いただけます。
「水産流通適正化法を正しく理解し、事業活動の追い風にする」
講演:株式会社シーフードレガシー 企画営業部 髙橋 諒
◆水産流通適正化法の対象魚種
日本では、特定第一種水産動植物と特定第二種水産動植物の2種類が水産流通適正化法の対象魚種とされています。
特定第一種水産動植物は、アワビ、ナマコ、シラスウナギの3魚種。高単価なためにIUU漁業の対象になりやすいこと、IUU漁業の対象になりやすいために漁獲量が減少していることなどが、これらの魚種が選ばれた理由です。
いっぽうの特定第二種水産動植物は、イカ、サンマ、マイワシ、サバの4魚種。これらの魚種が選ばれた理由として、IUU漁業の対象になりやすい、資源状況が悪い、日本への輸入量が急増している、といったことが挙げられています。
◆特定第一種水産動植物に関する企業側の義務とは
1、届出義務
対象業種の漁獲・販売・加工・流通を行う場合は、農林水産大臣か都道府県知事への届出が必要です。
届出を行う必要があるのは、基本的にはBtoB企業。しかし、BtoC企業のなかにも、届出を行う必要のある企業があります。
2、情報伝達義務
漁業者、一時買受業者、流通業者、加工業者は、事業者間での漁獲番号または荷口番号の情報伝達を行う必要があります。
3、3年間の取引記録作成・保存義務
漁獲番号を含む必要事項の取引記録の作成・保存が必要です。小売・飲食・宿泊業者も、対象業種を購買する際は、取引記録を作成し、保存しなくてはなりません。
水産庁が公開している「『特定水産動植物等の国内流通適正化等に関する法律』に関するQ&A」のP15に、各事業者に課されている義務の一覧表が掲載されています。
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kakou/pdf/tekiseika_qa_1.pdf
◆特定第二種水産動植物に関する企業側の義務とは
特定第二種水産動植物を輸入する際は、旗国の政府が発行した「適法採捕証明書」の添付をもって通関することができます。そのため、水産物を輸入する以前に、「適法採捕証明書」の発行が可能な国や地域の機関に依頼し、同書類を入手する必要があります。
また、漁獲した水産物を第三国で加工する場合は、「適法採捕証明書」だけでなく「加工申請書」も添付する必要があります。
◆水産流通適正化法に関連したリスク
旗国より「適法採捕証明書」が迅速に発行されないケースも起こり得ます。また、別途、「加工申請書」を発行する必要がある場合、実務面での負担が大きくなる可能性が考えられます。
これらの書類がスムーズに手配できなかった場合、水産物の日本への輸入や売り場への搬入が遅れてしまう可能性も同様に考えられます。
◆水産流通適正化法に関連した機会創出
水産流通適正化法を遵守するにあたっては、サプライヤーの協力が必要不可欠になります。そのため水産流通適正化法は、正当な取り組みを行うサプライヤーとの関係性が強化されるきっかけになるでしょう。
また、輸出の際、日本の法律に基づいた合法な水産物であると担保されることは、さまざまなビジネスチャンスに繋がると考えられます。
◆総括
IUU由来の水産物に関するリスクを軽減し、その対策の機会を有効に活用するうえでは、ステークホルダーとの情報交換や相談を早めに、なおかつ頻繁に行うことが大切です。
次回の開催は2023年1月を予定しています。次回以降のウェビナーにご参加いただく際はこちらのページからご登録をいただきシーフードレガシーのフォローをお願いいたします。(Peatixに飛びます)。セキュリティの都合でお申し込みできない方はこちらのメールアドレスまでご連絡ください。
企画営業部 髙橋 諒:ryo.takahashi@seafoodlegacy.com
(文:緒方 佳子)