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(CEOブログ)シーフードレガシー設立7周年を迎えて

私たち株式会社シーフードレガシーは、2022年7月7日に設立7周年を迎えることができました。ひとえに皆様のご支援の賜物と、心から感謝いたします。

シーフードレガシーは、「海における経済・社会・環境を繋ぐ象徴としての水産物(シーフード)を、豊かな状態で次世代に継ぐ(レガシー)」という想いを組織名にし、”Designing Seafood Sustainability in Japan, together”をパーパスステートメントに掲げて、2015年に設立した社会起業家企業です。

世界規模での水産システムのトランジションを提唱し、中でも環境持続性や社会的責任を追求する水産物調達の熟成がアジアでこそ必要との考えから、世界有数の水産市場大国であり国際的な影響力を持つステークホルダーが集う日本を拠点に、マーケット・トランスフォーメーションを加速する事業や活動を展開して参りました。


世界と日本の海と水産業界の今

乱獲やIUU漁業が主な原因として海洋生態系を破壊し、水産業や地域社会の持続性を世界規模で危機に陥れています。加えてプラスチック等による海洋汚染、気候変動による海洋酸性化・脱酸素化・海洋温暖化、世界人口増に伴う食料不足、正義や公平性を脅かす人権侵害など、深刻な諸問題への根本的対策も急がれます。追い打ちをかけるように、世界を一変させた新型コロナウイルスの感染拡大やウクライナ侵攻が、食料安全保障の重要性やグローバルサプライチェーンの脆弱さを、私達の喉元に突きつけています。

国内に目をやると、かつては世界最大の水産大国だった日本は今や、漁獲量はピークの3分の1、漁業従事者人口は同4分の1にまで減少し、さらに国民一人当たりの水産物消費は過去20年で4割減という、文字通り「フィッシュ・ショック」の危機に直面しています。獲る魚が不足し生活を営むことが難しい水産企業や地域社会は、再生産前の未成魚や乱獲状態にある漁業資源の漁獲を続けざるを得ない状況にあるだけでなく、国からの多額な補助金なしには生計を立てることができない負のスパイラルに追い込まれています。国の漁業補助金の多くはいまだに、未来の水産システム構築にではなく、ビジネスモデルが破綻して久しい既存の水産業システムを近視眼的に延命させることに、その多くが使われてしまっています。

ただ、悲観的な話ばかりではありません。2022年だけでも、WTOの漁業補助金交渉は約20年の時を経て合意に至り、共通課題の解決に向けた国際連携が国連海洋会議(以下、UNOC)で発表され、いくつもの国際的な動きが歴史的な進展を見せています。国内においても、「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」が日本の初のIUU漁業対策を目的とした法律として12月から施行が開始される予定ですし、ビジネスイニシアチブのさらなる活性化もフラッグシップイベントである東京サステナブルシーフード・サミット(TSSS)の成長が物語っています。未来の方向性は明確に示されており、この波に乗るステークホルダーの数は確実に増え続けています。


東京サステナブルシーフード・サミットは毎年国内外から、サステナブル・シーフードのムーブメントをつくり出すリーダーが集合、活発な議論が繰り広げられている


組織改変と今後のシーフードレガシー

私達はこれまで、激動する海洋環境および社会環境に適応し、日本の水産業が持続的に成長産業化するためには、国内での痛みを伴う抜本的な改革と、一部の地域の既得権益ではなく海の恩恵を受ける世界全体の未来利益を追求する国際連携への参加が必要であることを、多様なステークホルダーに訴え続けてきました。またそのためには、ビジョンの精度向上、科学に基づく正しい現状把握、バックキャスト思考によるロードマップ、ステークホルダー間における非競争連携の4点が大事であることを示してきました。

3年事業計画を3回完了すれば、もうSDGs達成目標年である2030年です。世界潮流とそこへの日本の参加をさらにギアアップさせるべく、私達はこの度、上記の主張を組織内部にも向け、1年をかけて大規模な組織改変を行ってきました。年始から取締副社長に就任した山内愛子と共に、新生シーフードレガシーの基礎を成す10人のコアメンバーとスクラムを組んで、パーパスを中心とする下記4領域における事業および活動を、再定義および新構築しました。


(左)山内愛子 取締役副社長、(右)筆者


1. マーケット・トランスフォーメーション

私たちは、日本を世界で最もサステナブル&レスポンシブルな水産市場国にすることを「シーフードレガシー 2030 Vision」の1つめに掲げています。具体的には「2030年までに、国内流通される水産物の75%以上が、環境持続性と社会的責任が担保されている、あるいはそれに向けた改善がなされている」というものです。日本の強大なバイイングパワーが世界の海洋保全にしっかり貢献できるよう、サプライチェーン上で乱獲やIUU漁業や人権侵害が起こる要因ではなく、環境持続性や社会的責任を追求するインセンティブになることの実現を目指します。

2022年。専門組織との連携体制の構築業界最前線に身を置いた海外出張を経て、日本の主要なマーケット・ステークホルダーによる非競争連携の体制構築を支援するプロジェクトを、プロポーザルからアクションへとギアシフトします。また調達方針の策定・実施・進捗確認に関するサポートや、サステナブルシーフード・カタログおよびサステナブルシーフード・ゼミナールの運営等を通じて、事業者の皆様が環境持続性や社会的責任の追求を自らのビジネスに落とし込むお手伝いをますます強化していきます。


2. ファイナンス・エンゲージメント

自然資本である水産資源を枯渇させる既存の水産業はビジネスモデルの破綻が指摘されています。私たちは世界規模での水産システムのトランジションを提唱しており、複数の国際水産企業が本社を構える日本にそのリーダーシップの発揮を求めています。そのブースターとして期待するのが、金融機関が投融資先の主要水産企業の事業のあり方に積極的に関わり、企業が環境持続性や社会的責任の向上に取り組むように働きかける「エンゲージメント」です。

欧州では既に金融機関の動きが活性化しています。2021年には水産資源を含む自然資本に関連する情報開示を企業や金融機関に求める国際的なイニシアチブ、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が発足。企業の環境評価を行うCDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)は、2024年を目処に海洋分野を対象に加えることを発表しています。国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)はサステナブル・ブルーエコノミー・ファイナンスにおける原則やガイダンスを作成し、EUの複数の金融機関は既に様々な形で水産企業へのエンゲージメントを実行しています。

2022年。私達は、国際機関、国際NGO、財団やシンクタンク等と連携し、またコーディネーターやエンゲージメント担当等の組織内キャパシティを増員することで、日本でも水産をESGファイナンスやブルーファイナンスの中核アジェンダの1つに位置させることを目的とするプロジェクトの新展開を準備中です。マーケット・トランスフォーメーションを下支えするファイナンス・エンゲージメントをデザインします。


昨年は連続ウェビナー「海の自然資本とESG投融資」を開催


3. ポリシー・シフト

日本政府の国際連携におけるリーダーシップの発揮も「シーフードレガシー 2030 Vision」の一つです。具体的には「2030年までに、公海や高度回遊魚等における資源管理の国際的枠組みで、持続可能性を追求する連携のリーダーシップを、日本政府が発揮する」というものです。これまで世界潮流の対応に追われてきた日本政府のポジションを未来世代のための新たな世界潮流をリーダー諸国と共創し周囲を巻き込むポジションへ高めることが、日本の水産業の発展に絶対的に必要だと、先日、UNOCに参加した際も改めて痛感しました。

2022年。弊社副社長の山内と私は複数の政府有識者会議における委員を務める一方、政策提言を軸に活動する「IUU漁業対策フォーラム」をはじめ、国内外の複数のアライアンスのメンバーでもあります。今後もこれらの機会を活用して、乱獲・IUU漁業・人権侵害の対策と持続可能な漁業の追求における、世界潮流の国内施策への適応や、ジャパン・イニシアチブの構築等について、国内外のステークホルダーに働きかけ、ともに歩んでいきます。

政府が動くには業界からの賛同とサポートが実質的に不可欠であるため、上記マーケット・トランスフォーメーションをこのポリシー・シフトに確実につながるようデザインしながら進めます。


4. ムーブメント・オーケストレーション

持続的な水産システムの構築は、個別の企業やセクターで成し遂げられるものではありません。多様なステークホルダーが目的を共有し非競争連携体制を構築していくことが、このムーブメントの成功の鍵を握っています。そのツールとなるのが、弊社のオウンドメディア “Seafood Legacy Times”そして、日本で加速するサステナブル&レスポンシブル・シーフード・ムーブメントのフラッグシップ・イベントとして国際的に認知されるTSSSの開催です。UNOCに参加して驚いたのですが、3年ぶりのリアル開催となる今年のTSSSは既に多くのUNOC参加者のスコープに入っており、TSSSへの参加希望者や登壇希望者の名刺で私の鞄は溢れました。8年前に初めてTSSSを開催した時の「東京をサステナブル&レスポンシブル・シーフードのアジア・キャピタルに」との思いが、ある意味で実を結びつつあることに身震いしました。

NGOプラットフォームである「IUU漁業対策フォーラム」のコーディネーションおよび加盟組織に対するフィスカルスポンサーの役割も、「4. ムーブメント・オーケストレーション」の中核をなすものです。UNOCに参加して改めて脳裏に強く焼き付いたのは、欧米社会におけるNGOをはじめとする市民セクターの、政府からの信頼度の高さ、政府への影響力の強さでした。こうした信頼を損なわないよう、私たちは日本で、プラットフォームに加盟するメンバー組織の強みを活かし、それぞれの活動が相乗効果を成すコーディネーションを通じて、IUU漁業の撲滅と日本の市民社会の熟成に尽力していきます。

シーフードレガシーは、皆様との連携を大切にしながら、8年目も全力で走り続けます。

皆様には今後とも変わらぬご指導ご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。


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