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すり身業界を取り巻く問題とその原因〜すり身原料のサステナビリティ構築に向けて〜 :連続ウェビナー特別編 報告ブログ

シーフードレガシーでは連続ウェビナー「サステナブル・シーフード・ゼミナール〜環境や人権に配慮したサプライチェーンをつくるには〜」を主催しています。全4回を通して水産物を取り巻く環境を理解し、水産サプライチェーンの改善方法や実践方法を学べる講座です。

企業としてSDGsに取り組みたい、サステナブル・シーフードを取り扱いたい、IUU(違法・無報告・無規制)水産物の排除に向けて取り組みたい等お考えの方々に役立つ情報を発信してまいります。

2022年7月21日(木)に行われた特別編講座では、すり身業界が直面する社会問題とは何か、これに対してどのように取り組んでいくべきかについて、5つの国際NGOによるプラットフォームCertification & Ratings Collaboration(CRC)が作成した最新レポートをもとに検討していきました。


「すり身業界における市場規模と東南アジアにおける生産現場での問題」

株式会社シーフードレガシー 企画営業部 髙橋諒

前半ではCRCが作成した熱帯すり身原料の調達リスクに関するレポートをもとに、すり身サプライチェーンにおける問題点やその解決に向けたロードマップを検討しました。

すり身(魚肉を加工して作られた魚肉製品)や練り製品(すり身を原料として調味された魚肉製品)のメインマーケットはアジア圏ですが、近年では欧州や北米でも広まり始めています。
また大手企業を中心としてMSC認証を取得した原料を取り扱う動きもあります。最大手ねりメーカーの紀文食品は2030年までにMSC認証など持続可能な漁業によるすり身の使用率を75%以上にし、IUU漁業からの調達を0にするという目標を掲げました。

すり身の主要原産国は中国、ベトナム、インド等東南アジアの南方魚種が全体の70%を占め、またその種類は120種超です。こうした多魚種漁業を特徴とするすり身サプライチェーンには、以下のような問題点があります。


 ・魚種が多く、製品ごとの原材料記録管理が複雑 
 ・トレーサビリティを困難にする複雑なサプライチェーン困難
 ・労働、公平性、地域社会への配慮不足による社会問題への関与の可能性がある
 ・奴隷労働や強制労働の雇用などの違法行為への関与の可能性がある
 ・科学的根拠に基づくデータの欠如と、漁獲管理計画の構築が困難




また原料を船上等で加工するために現場で管理することが難しいという問題もあります。
こうしたサプライチェーンの複雑化のため、IUUリスクや人権侵害などの社会問題を特定しづらくなります。

また、資源管理が適切に行われてこなかったこともあり、中国やインド、マレーシアやベトナムの生産者を対象とした調査では、魚の平均サイズが30%も減少し、水揚げ量が半減するなど資源の枯渇に関するデータが報告されてきています。(*1)

すり身産業は生産国・消費国ともにアジア圏が中心ですが、海外への販路拡大に向けては、主要原産地である東南アジアにおけるサステナビリティ構築は必要不可欠です。しかし、生物多様性などの環境問題とIUU漁業などの社会問題が複雑に絡み合っているため、すり身サプライチェーンの問題を一度で全て解決することはできません。
そのため、ステークホルダーと対話した上で、使用している原料の持続性をどのように保っていくかを検討していく必要があります。

*1 https://certificationandratings.org/wp-content/uploads/2021/11/Surimi-EO-v1-FINAL.pdf


「東南アジアにおけるすり身原料のサステナビリティ構築に向けて」

株式会社シーフードレガシー 代表取締役社長 花岡和佳男

後半ではCRCが作成したレポートの「東南アジアにおけるすり身原料のサステナビリティ構築に向けて」をもとに、そのロードマップを描く上でのツール等を紹介していきます。

すり身原料生産国と水産練り製品生産国は主に中国、ベトナム、インド、タイ、インドネシア、マレーシアのアジア圏です。一部では近年様々なステークホルダーの連携によって状況が改善されつつあるとの報告もありますが、ほとんどの国では依然として水産資源管理が持続性担保に十分でないことに加え、IUU漁業や現代奴隷などの深刻な問題を抱えています。

すり身産業における問題は多魚種漁業であることや様々な要因が絡み合っており、規制のみによる解決は容易ではありません。そこで重要となるのが、マーケット側からのアプローチです。1社1社で問題解決に取り組むだけでは限界があるため、問題を共有する複数のサプライチェーンの川中・川下企業が非競争連携のプラットフォームをつくり協働して解決に取り組むことが、市場や加工流通サイドにとっても欠かせない生存戦略であると言えます。

こうした東南アジアにおけるすり身原料のサステナビリティ構築に向けたロードマップを描く上での10のツールを紹介しました。


(1) 海洋管理協議会(MSC)予備審査(プレ・アセスメント)
(2) 環境ラピッド・アセスメント(ERA)
(3) マリントラスト(MarinTrust)評価
(4) フィッシュソース(FishSource)
(5) 社会的責任評価ツール(SRA)
(6) 漁業改善プロジェクト(FIP)
(7) 水産原料に関する世界円卓会議(SR) 例:IFFO
(8) オーシャン・ディスクロージャー・プロジェクト(ODP)
(9) サステナブル・シーフード・カタログ(SSC)
(10)  東京サステナブルシーフード・サミット(TSSS)


(1)〜(8)ではCRCのレポートの中に掲載された国内外の組織によるものであり、(9)と(10)はこれを踏まえて独自に弊社が提案したものとなります。


Ocean Disclosure Projectの例。調達している魚種の漁業やそのサステナビリティに関する情報が企業ごとに公開されている。

上図はWalmartのスクリーンショット(一部和訳)。


「すり身事業の先進事例」

明弘食品株式会社 社長 明神宏幸氏

明神氏は2008年に鰹一本釣り漁法で世界初となるMSC漁業認証を取得し、2021年にはASC養殖漁業認証を取得したベトナム産パンガシウス(ナマズ)を使用したすり身「パンガスリミ」を開発しました。


パンガスリミ


ねり製品の原料が高騰する中、パンガスリミは高品質ながら低価格と安定供給を実現しました。
独自の特許技術により、パンガシウスの高い加水効果を発揮しながら弾力を維持し、海水魚すり身のA級品より2割ほど原価を削減することができます。白度も最高級品とされるSA級以上で、パンガシウスにおいて懸念される魚臭さも独自の除去技術によって無臭となっています。

このように、技術を活用しながら高品質低価格を、さらにそれだけではなく、ASC認証取得という今日的な存在価値を実現しています。


質疑応答

「日本の水産企業に投融資する金融機関はこの問題をどのように捉えているのか」「日本でサプライチェーンの川中・川下企業が連携する『すり身プラットフォーム』のようなものを構築する考えはあるのか」などの質問が相次ぎ、日本の水産業界がすり身の問題解決に極めて高い関心を持っていることが明らかになりました。


まとめ

私達がすり身をテーマにウェビナーを開催したのは今回が初めてですが、これまで開いたウェビナーの中でも特に多い、80名超が参加しました。すり身の加工流通企業や末端流通企業を中心に、行政、NGO、メディア、金融機関など多くのセクターからの参加がありました。

ウェビナーでは、すり身業界を取り巻く課題をシェアしましたが、課題を解決するために調達をやめてしまうことは解決には繋がりません。既存の、またはこれからサステナビリティに関する課題解決をしようとする企業や生産者を調達の力でサポートすることが重要です。

次回以降のウェビナーにご参加いただく際はこちらのページからPeatixのご登録をいただきシーフードレガシーのフォローをお願いいたします。セキュリティの都合でお申し込みできない方は以下までご連絡ください。

企画営業部 髙橋 諒 ryo.takahashi@seafoodlegacy.com



(文:長澤 奈央)

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