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(CEOブログ)サステナブル・シーフードから日本の水産業のアジア戦略を描く – Seafood Expo Asia 2022 最新報告

シーフードレガシーCEO花岡和佳男です。


金融・貿易・交通・物流におけるネットワークやデジタル面でのインフラ整備が進み、東南アジアのビジネスハブ及びスマートデジタル国家として名高いシンガポールを訪問してきました。主目的は、コロナ禍となってから初の開催となるSeafood Expo Asia 2022 への参加です。

このイベントは、ボストンで年次開催されるSeafood Expo North Americaやバルセロナで年次開催されるSeafood Expo Globalと並ぶ、Seafood Expoの冠がつく3つの国際イベントの一つ。シーフードレガシーは、ボストンとバルセロナでは先行する欧米事例に学び、優れたイニシアチブを日本に導入するためのネットワークや戦略を構築する一方、シンガポールでは日本での経験をアジア圏における水産業界の持続的発展に活かすシステムの青写真を描きます。

ニッスイグループの第2回取扱水産物資源調査を行ったSFP(Sustainable Fisheries Partnership)、東洋冷蔵が8月末に公開した「マグロ類に係る調達ガイドライン」で言及したGDST(Global Dialogue on Seafood Traceability)、シーフードレガシーが定期開催するサステナブルファイナンス・セミナーのパートナーであるWWFファイナンスチーム等、複数の専門組織と久しぶりに対面での戦略会議を行いました。また、私はこのイベントの主催組織が開いた2つのセッションで登壇をしてきました。


セッション1:シーフード・サステナビリティ

1つめのセッション「シーフード・サステナビリティ:なぜ・何を・どのように –– 水産バイヤー、加工流通業者、生産者のためのワークショップ」は、SFPによる問題提起で幕が開け、水産缶詰世界最大手Thai Union社から、2021年のSeafood Stewardship Indexで1位の評価を得た、環境持続性及び社会的責任を追求する企業方針・実施計画・確認体制の紹介がされました。

次いで私は、世界有数の水産市場国である日本で2015年からギアアップしたサステナブルシーフード・ムーブメントの背景や道のりについて講演。イオン、セブン&アイ・ホールディングス、ニッスイ、三菱商事(東洋冷蔵)等が相次いで策定・公表する水産物における基本方針に見る「マーケット・トランスフォーメーション」と、漁業法の歴史的大規模改正や水産流通適正化法の成立に見る「ポリシー・シフト」について、話をしました。

登壇後にアジア圏の生産者と意見交換。「ここ数年は欧米企業だけでなくサステナビリティやレスポンサビリティを求めてくる日本企業が増えてきた」「ASC認証を取得した。これで日本企業と契約再開の交渉の場に立てる」などの声を聞き、過去には問題の根源の一つとされていた日本のバイイングパワーが、今は徐々に問題の解決に貢献できていることに、力強い変化を実感しました。


セッション2: IUU漁業対策

2つ目のセッション「アジアの水産サプライチェーンからIUU漁業や産地偽装を排除するためのトレーサビリティ・システムの確立」では、世界で3番目の包括的なIUU対策の法律として2022年12月から施行が始まる日本の水産流通適正化法について話をしました。

行政に対しては内閣府規制改革推進会議水産WGの専門委員や水産庁水産流通適正化制度検討会議の委員として、市民社会に対してはIUU漁業対策フォーラムの設立メンバーとして、そして水産関連企業にはコンサルタントとして、各セクターにおけるIUU漁業リスクのサプライチェーンへの流入阻止に貢献してきた経験を織り混ぜ、また6月にリスボンで開催された国連海洋会議での日本政府による発表についても触れながら、対象種の拡大、トレーサビリティシステムの確立、国際連携の強化など、ネクストステップの提案で講演を締め括りました。

同セッションでは、GDSTから国際基準のトレーサビリティやプラットフォームについて、台湾マグロ漁業最大手で日本にも多く輸出するFCF社からIUU漁業や人権侵害に由来する水産物をサプライチェーンから排除することを目的に導入した管理ツールや検証メカニズムについて、そして日本からイオントップバリュの松谷信也様が同社における水産物の調達方針について、それぞれご紹介されました。モデレーターはIUU漁業対策フォーラムのメンバーでもあるTNC(The Nature Conservancy)の桑田由紀子様が務められました。

IUU漁業リスクの日本市場への流入を阻止することを目的とする水産流通適正化法は、日本に多くの水産物を輸出するアジア圏の水産生産・加工流通業に特に大きな影響を及ぼします。登壇後、欧米のIUU漁業対策の輸入規制に対応してきた東南アジアの事業者から、「日本の流通適正化法を歓迎する。対象種や確認項目は先行する欧米のものと統一し、報告形態は欧米日で協力して早くデジタル化を進めてほしい」と熱弁されました。消費市場だけでなく、正当な事業を行う彼等のような企業をIUU漁業リスクから守るためにも、世界的な主要水産輸入市場である欧米日による連携強化と、生産から消費までのフルサプライチェーンを内包するアジア圏における連携強化の、両方において日本の覚悟が求められていることを改めて感じました。



Designing Seafood Sustainability “in Asia”, together

乱獲、IUU漁業、人権侵害など水産に関する諸問題において、アジア圏はこれまでたびたび”問題の現場”や原因として扱われてきました。私はアジア圏を”解決の現場”にしたくて2015年にシーフードレガシーを設立。その時に作った当社のパーパス・ステートメント「Designing Seafood Sustainability in Japan, together」に込めたのは、シーフード・サステナビリティ&レスポンサビリティを追求するアジア圏にフィットしたシステムの一端を、バイイングパワーでアジア圏の水産業界を支える日本で確立する志です。

かつて世界最大の水産大国にまで上り詰めた日本を、これからは水産分野の環境持続性や社会的責任の追求におけるアジア&グローバル・フロントランナーにしたい。多様なステークホルダーによるグランドデザインの共有と連携力の向上により、日本の水産業界を生産面でも流通面でも持続的成長産業化させ、世界の生物多様性の保全と食料安全保障問題の解決に貢献することで、日本の新たなアイデンティティを世界に認知させたい。私の目にはそれが、既存のシステムでは生産競争も購買競争も勝ち目のない日本の水産業界にとって、唯一の根本的生存戦略に映ります。

シンガポールでの2セッションで私がアジア圏の多様なステークホルダーに伝えたのは、「1. マーケット・トランスフォーメーション」が「2. ポリシー・シフト」にドライブをかけ、「3. ファイナンス・エンゲージメント」がその加速度を上げ、各セクターのイニシアチブを紡ぎ編み込む「4. ムーブメント・オーケストレーション」が基礎を成す、これまで日本で組み立ててきた当社のセオリー・オブ・チェンジの大枠です。



これをアジア圏の枠に当てはめると「1. マーケット・トランスフォーメーション」は主要水産市場国として、「2. ポリシー・シフト」は地域機関に加盟する主要国として、日本の貢献が特に活きる分野です。また、アジア圏における金融の中心であるシンガポールで「3. ファイナンス・エンゲージメント」について話をすることができたのは有意義でした。そして、Seafood Expo Asiaは日本のTokyo Sustainable Seafood Summit (TSSS)同様「4. ムーブメント・オーケストレーション」の役割を持つものです。アジア圏における新たなシステムづくりは、日本の水産業界にとってはバイイングパワーが衰退し切る前に舵を切る必要があり、速度が求められます。

シーフードレガシーにとって新たな旅路となるアジア展開に期待が膨らむシンガポール出張でした。早速、主要漁業国であり日本にも水産物を多く輸出するインドネシア・ジャカルタでの講演依頼が届きました。


スマートデジタル国家における養殖業の発展

食料品、衣料品、日用品のほぼ全てを輸入に依存するシンガポールでは、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うサプライチェーンの停滞と、その後の経済回復による物流の混乱による被害を真正面から受けた経験から、2030年までに食料自給率30%を目指す新政策 ”30x30”が打ち立てられています。出張初日に訪れたWWFシンガポール事務所のマーケット・トランスフォーメーション担当者曰く、水産分野においては特に環境持続性や社会的責任を追求する養殖業の発展に焦点が当てられているとのこと。Seafood Expo Asiaのイベント会場では、複数のIT企業が養殖業のスマートデジタル性を強調し、ベンチャーキャピタルファンドが環境持続性や社会的責任を追求する養殖事業を対象としたアクセラレーター・プログラムやイノベーション・サービスのパンフレットを片手に会場を駆け巡っていました。

今回のシンガポール出張は、個人的には幼稚園入園から高校卒業までの時間の大部分を過ごした国への約20年ぶりの里帰りでもありました。思い出と繋がらない超近代的な街並みに若干の寂しさを感じつつも、国際視野で描く国家計画の基で戦略的に強みを磨き経済や社会の成長を国民に還元するキレの良さや、国全体に満ちる世界思考・未来志向のエネルギー量の高さに、懐かしさを感じ、改めて憧れを抱きました。未来を軸に回る社会や経済は活発であることを再認識しました。




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