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水産物の裏で犠牲となっている「海の奴隷」〜私たちにできることとは〜 大丸有SDGs映画祭2022「ゴーストフリート」上映会レポート

2022年9月7日(水)に大手町で大丸有SDGs映画祭2022(主催:大丸有SDGsACT5)が開催され『ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇』(以下ゴースト・フリート)の上映とゲストトークが行われました。


<映画のあらすじ>

『ゴースト・フリート』は、東南アジアで「海の奴隷」として働かされている人々の救出活動を命懸けで行うタイ人女性、パティマ・タンプチャヤクルたちの活動を追うドキュメンタリーです。世界有数の水産大国であるタイには、人身売買業者に騙されるなどして漁船で奴隷労働者として働かされる人々が数万人存在すると言われています。日本でも多くの水産物をタイから輸入していますが、安い水産物の裏で犠牲となっているのが賃金も支払われずに過酷な環境で働く「海の奴隷」たちなのです。 (映画詳細:https://unitedpeople.jp/ghost/

『ゴースト・フリート』の上映を行ったのち、WWFジャパン 海洋水産グループ パブリックアウトリーチオフィサーの滝本麻耶さん、株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング 代表取締役社長の津田祐樹さん、そして弊社取締役副社長山内愛子によるトークイベントが行われました。

最初にそれぞれから簡単な自己紹介と映画の感想をお話しいただきました。


左から滝本さん、山内、津田さん


WWFジャパン 滝本さん
WWFジャパンの海洋水産グループにて、IUU漁業をはじめとする諸問題を伝えるなどし、多くの人に行動変容を促す活動をしています。
この映画と出会ったのはIUU漁業撲滅のために活動し始めた2019年でした。現代にも奴隷状態の方がいることに衝撃を受け、知らないうちに加担していたことがショックでした。まずは起きている現実について多くの人に知ってもらうことが重要だと考えています。
 
シーフードレガシー 山内
シーフードレガシーは持続可能な水産物を責任を持って扱う、日本の市場がそれを実現することを目指して行政・企業・NGOと共同しながら活動しています。
2019年に行われた、弊社と日経ESGさんとで共催している東京サステナブルシーフード・シンポジウム(現:東京サステナブルシーフード・サミット)でパティマさんにお越しいただいてパネルディスカッションを行い、強い信念を持って活動されている姿に大変インスパイアされました。海は国境がわからず、また船がどこで操業しているかもわからないため、解決が難しく躊躇してしまう消費者や企業が多いです。しかしパティマさんが示しているのは今一歩踏み出さなければ、救える命も救えないということなのです。
 
フィッシャーマン・ジャパン 津田さん
東日本大震災を機に地元漁師らとフィッシャーマン・ジャパン グループを設立し、日本の水産業を「新3K(カッコよくて、稼げて、革新的な)」産業にするべく活動しています。
こうした奴隷労働問題が起きていることは知っていましたが、ここまで酷いとは思いませんでした。船の上で起きていることは普段見ることができず、メディアからしか情報を得られないため、今回映画を観て衝撃を受けました。
 
 
『ゴースト・フリート』のように違法行為、人権侵害が行われているような漁業はIUU(違法・無報告・無規制)漁業と呼ばれています。最初に、滝本さんがこのIUU漁業の実態と対策についてお話ししました。


図:シーフードレガシー


IUU漁業の対策として、漁獲した水産物の漁獲日時、場所など操業データを示す漁獲証明制度があり、EUは全魚種が対象になっており、米国は全魚種拡大に向けて動いています。日本ではIUU漁業由来水産物の流入防止のために「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」(水産流通適正化法)が令和4年12月1日より施行されます。しかし対象魚種は国内3種、輸入水産物4種です。海外市場の状況を考えても、日本だけがIUU漁業の抜け穴になってしまう恐れがあるため、今後は全魚種対象にしていくことが求められます。
 
続いて弊社山内よりトレーサビリティについてお話ししました。
 
まずトレーサビリティの起点である持続可能な漁業についてはMSC認証ASC認証制度があります。そしてさらなる状況改善に向けて、現場からの情報をサプライチェーン上で保管・共有していく必要があります。情報の内容や保管方法における基準策定の段階では、アジア圏、欧米から様々な企業が策定プロセスのマルチステークホルダー会議に参加しています。日本企業でも、こうしたダイアログに積極的に参加することで、国際的な取り組みに協働していこうという動きが増えています。
また人権デューデリジェンスについて、水産業界は他と比べて若干遅れていましたが、個別水産物に対するデューデリジェンスを行う流れが徐々に整ってきています。
 
また、津田さんより現場視点で問題について、そしてIUU漁業へ対抗するための活動についてお話しいただきました。
 
日本でトレーサビリティ導入が進まない大きな原因は技術ではなくコストです。トレーサビリティの仕組みを作り、現場や市場が管理システムを莫大なコストで運用した時、一体誰がそのコストを負担するのでしょうか。商品代金に転化できれば問題ないですが、日本の消費者にはまだ「環境配慮のために少し高くてもお金を払おう」という意識がありません。
そのため、我々はまず状況を知ってもらうことが重要だと考え、子供向けの絵本を作ったり、漁師の思いをSNSで発信したりして地道に活動を続けています。
 
 
今回の映画にあった「海の奴隷」が生まれてしまう原因として「安い方が良い」という社会が存在してしまっていることがあります。最後に、この価値基準を変えていくためにはどうすれば良いのか、お三方からお話しいただきました。



 
津田さん〜水産業変革の時 海を守る重要性〜
安いものには理由があることが大前提です。消費者はどこかにしわ寄せがいき、何かが起きているのだと冷静に考えるべきなのです。
ここまで暗い話になりましたが、明るい話もあります! これから先、人口増加が続くと、食料危機が起こります。このとき適切に資源管理すれば増えるのが水産物です。今は暗くても、将来的には日本の一大産業になる可能性を秘めています。このタイミングで、我々で海を守って日本の大きな産業にしていくべきなのです。
 
山内〜非競争連携からサステナブルな未来へ〜
企業としては「良いものをなるべく安く」といった姿勢が多いですが、「なるべく」には限度があります。良いもので、美味しくて、サステナブル、そうした商品は高いが意外と売れるという量販店があります。このような成功体験を今後伝えていければと思います。
もう1つ重要なのが企業の非競争連携です。一企業がIUU漁業由来の水産物を排除しても、他が販売していては本質的な解決になりません。そのため非競争連携をつくり、その中でプラットフォームをどのようにつくっていくかが今後重要となってきます。
 
滝本さん〜消費者が「適正価格」について考える〜
環境破壊や人口増加などの影響から、足りなくなってきている資源を人々が使うために価格は高騰します。その背景を考えずに値段だけで判断する、そのような基準で消費の選択をしているといつかしっぺ返しを受けるのは私たちです。
持続可能な消費を実現するためには、環境配慮や労働問題などを含めた適正価格を消費者一人一人が考え、社会で負担していくことが必要なのです。

普段見ることがない船の上での出来事を映画を通してリアルに感じ、安い水産物の裏で犠牲となっている「海の奴隷」の存在を知るきっかけとなりました。またトークイベントではIUU漁業の問題点、そして日本の水産業の未来についてもお話しいただきました。一人一人が問題点を意識し、解決に向けて取り組んでいくことが求められます。


シーフードレガシーでは「水産「ブルーオーシャン」戦略を描く〜人権・生物多様性・気候変動から考えるサステナブル・シーフード〜」をテーマに、東京サステナブルシーフード・サミット(TSSS)2022を10月19日(水)〜21(金)に開催します。

詳細は以下をご覧ください。

https://sustainableseafoodnow.com/2022/

                             


(インターン/長澤奈央)



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