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(CEOブログ)2023年 新年のご挨拶

シーフードレガシーCEO花岡和佳男です。

謹んで新春のお慶びを申し上げます。

旧年中はひとかたならぬご愛顧を賜り、厚くお礼申し上げます。


日本の水産業界の前に広がる「ブルーオーシャン」

世界人口は2058年に100億人に増加した後、2080年代には104億人でピークに達し、2100年までその水準が維持されるとの予測が示されています。食料需要が増加する中、地球の表面積の7割を占める海洋におけるフードシステムの持続可能化が、国際緊急課題となっています。しかし世界の漁業資源は、約3割が乱獲、約6割が満限利用の状態にあり、まだ余裕のある漁業資源は全体の1割以下で、その割合は年々減少しています。

養殖業も、その多くが大量の餌を天然魚に依存しており、この課題を共有しています。加えて、適切な資源管理の網の目を抜けるIUU(違法・無報告・無規制)漁業が、事態の悪化に拍車をかけています。さらに水産業界には、漁業における海賊行為、漁場へのアクセスを巡る紛争、児童労働や強制労働、人身売買等の違法行為が、いまだに蔓延しています。

これらの世界的な諸問題は解決されないまま、気候変動による海洋酸性化、脱酸素化、海水温上昇、海面上昇や、プラスチック汚染などが重なり、またコロナ禍でグローバル・サプライチェーンの脆弱さも露呈されるなど、世界の水産業界は多くの壁に直面しています。

私たちシーフードレガシーは、水産政策・水産事業・ESG金融・市民社会などの多様なステークホルダーの皆様と共に、環境持続性や社会的責任の担保を条件とする国際成長市場への本格参入を視野に、世界有数の輸入水産市場規模と豊かな海洋生態系といった日本のポテンシャルを戦略的に最大化させながら、国際課題の解決に向けた貢献を日本水産業の成長産業化への足がかりとする筋書きを描いています。

かつて世界最大の水産大国にまで上り詰めた日本が、生産構造の再編を余儀なくされている現状では、これからは環境持続性や社会的責任の追求においてアジア圏のフロントランナーを目指すことが、誇らしき未来の日本水産業の姿であると私たちは見ています。

環境持続性や社会的責任を追求する水産市場への変容を達成することで、国内の水産経済や地域社会が潤いを取り戻し、人口増加に伴う食料不足に苦しむ国際社会に上質なタンパク源を持続的に供給し、国際社会の発展に希望の光を灯す。これが、私たちが考える日本の水産業界の根本的な生存・成長戦略です。


2022年のサステナブルシーフード・ムーブメントのハイライト

1. 水産市場 環境持続性・社会的責任方針の策定相次ぐ

近年、日本の小売企業や水産加工流通企業は相次いで環境持続性や社会的責任の追求を企業方針に掲げ、具体的な活動計画を作成・実施し、国内外の競合他社やサプライチェーン企業との連携を強化することで、トレーサビリティ体制の構築、生産現場の取り組みの直接支援、消費者への啓蒙活動などを活性化させています。

2022年、世界有数のマグロ貿易企業である三菱商事および東洋冷蔵が、サステナブルな方法で生産・調達された原料の調達を行い、国際的な過剰漁業やIUU漁業、さらに人権侵害の問題などの解決に貢献することを目的とした、「マグロ類に係る調達ガイドライン」を策定・発表されました。

また、セブン&アイ・ホールディングスの事業会社3社(イトーヨーカ堂、ヨークベニマル、ヨーク)が、複数の認証エコラベルのCoC認証を取得し、店内加工した認証水産物の認証商品としての販売を開始されました(これまで販売されていた認証商品は店外加工品に限られていました)。サステナブルな食材作りを生産者とともに強化する同社の取り組みは、第4回JSSA(ジャパン・サステナブルシーフード・アワード)でファイナリストに選出されました。

さらに国内の水産市場として重要な位置付けにある函館でビジネスを行うマルヒラ川村水産が、地域に根ざした持続可能な調達のあり方を追求したり、大丸松坂屋百貨店によってサステナブル・シーフードを使った商品が販売されるなど、ムーブメントは新たな流通ステークホルダーにも広まっています。

2. 金融 ブルーファイナンスへの注目高まる

金融セクターによるブルーファイナンスへの注目が近年高まりを見せています。2021年は三菱UFJ銀行、みずほ銀行、第一生命保険などが世界最大のツナ缶企業タイユニオンに対して、サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)の形で融資を始められたことが話題となりましたが、2022年は世界最大の水産グループであるマルハニチロが、サステナブルファイナンスを活用する日本で初となるブルーボンドを発行されました。これにより調達された資金は主に環境持続型の漁業・養殖事業等に充当されます。

3. 政策 水産流通適正化法施行

2022年、特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律(水産流通適正化法)の施行が始まりました。これはIUU(違法・無報告・無規制)漁業に由来する水産物の日本市場の流入阻止を目的とした法律であり、EUのIUU Regulationと米国のSIMP (Seafood Import Monitoring Program) に次ぐ、世界で3番目となるIUU漁業対策の包括的制度です。国際的に流通する水産物の半分以上を占める世界三大水産物輸入市場が揃ってIUU漁業にNOを言い、正当な事業者を不公平な競争から守る、国際連携体制構築の具体的一歩が踏み出されました。

また、世界貿易機関(WTO)では、約20年に及ぶ議論の末、過剰漁業やIUU漁業につながる有害な漁業補助金の禁止が合意されました。さらに、日本政府は、企業における人権尊重の取り組みを後押しするための「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のガイドライン」を策定・発表しました。

4. プラットフォーム 透明性強化をはかる国際プラットフォームも誕生

日本を中心とするサステナブルシーフード・ムーブメントのフラッグシップイベントとして2015年から年次開催されている「東京サステナブルシーフード・サミット」(TSSS)が、2022年には3年ぶりのリアル会場開催を含む(初日のみ)ハイブリット形式で行われ、のべ約870名の皆様にご参加いただきました。

また、国際的には、IUU漁業や人権侵害などのリスクをサプライチェーンから排除しステークホルダーを守るために不可欠な手段として挙げられている透明性(トランスペアレンシー)を追求すべく、国際プラットフォーム「Global Fisheries Transparency Coalition」が誕生しました。運営理事には国際NGOや地域特化型専門組織の代表者等と共に、日本からは私が参画しています。


2023年の展望

既に国際社会では、サステナビリティを担保できていない水産業はビジネスモデルの破綻が指摘されています。補助金による短期的延命措置には限界があり、水産システムの抜本的なトランジションが急がれる中、未来世代にバトンを渡すべくサステナビリティを本業で追求するステークホルダーは、国内でも年々増えてきています。環境持続性や社会的責任の追求が水産ビジネスの主流となる未来が、確実に近づいてきています。シーフードレガシーは本年も、サステナブル・シーフードの主流化を通じた水産業成長産業化に寄与できますよう、業務に精励いたす所存でございます。

サステナブルシーフード・ムーブメントのフラッグシップイベントであるTSSSは、2024年に10回目の開催を迎えます。それまでの10年の軌跡をステークホルダーの皆様と共に振り返り、発展を祝い合い、SDGs達成目標年である2030年へ向けた新たなロードマップを共にデザインする、業界全体にとって大きな節目となるでしょう。その前年となる2023年、今年もこの業界に携わる多くの皆様と共に、長期的・国際的な視野のもとで、明るい未来への歩みを進めていきたく思っております。

本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。

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