改正漁業法にどう対応するか 持続可能な漁業を目指す FIPに注目(1/2)
2020年12月、持続可能な水産資源の利用を目的に、資源管理の高度化を目的とした改正漁業法が施行され、漁業許可制度や漁業権制度などのほか、資源管理システムが変わりました。特に資源管理については、資源評価の基準や評価方法の変更に伴い漁獲量も変わり、今後何をしたら良いのか模索している方も多いのではないでしょうか。
そこで、漁業の未来を見据えて先進的な漁業を営んできた結果、新漁業法の参考にもなっているのが、FIP(漁業改善プロジェクト)の取り組みを進めている東京湾・船橋の中型巻き網のスズキ漁です。
次の100年を見据えてMSC認証取得を決意
その漁を行うのは海光物産株式会社の大野和彦さん(大傳丸)と中村繁久さん(中仙丸)です。大野さんの祖父の代には、東京湾には多種多様な魚が豊富に生息していました。しかしその後工業化などにより水質が悪化、魚種も漁獲量も目に見えて減少していきました。100年続いてきた東京湾の漁業を絶やさず、次の100年のために何ができるのだろう?
そう考えた大野さんは、持続可能な漁業であることを示すMSC認証の取得をし、2016年、東京オリンピック・パラリンピックで自分たちのこだわりの「瞬〆スズキ」をアピールをしようと考えました。
MSC認証の取得にあたっては、現状、いわば「合格可能性」を診断するため、予備審査を受けることになっています。予備審査は、MSC認証は3つの原則(資源の持続可能性、漁業が生態系に与える影響、漁業の管理システム)の下にある28の指標に基づいて第三者機関が取り組み状況を採点、取得の可能性を判断します。
大野さんはすでに自分なりに考えて取り組みを行っていたため、良い結果を期待していたのですが、予備審査の結果、衝撃的な事実が判明したのです。
船の上で語る大野さん。生分解性素材を利用した漁網にも挑戦しようとしている。
1. 資源状態がわからない
「いったい銀行にいくらお金があるのかわからない」
大野さんはスズキの資源量を預金に例え、こう言います。銀行にいくら預金があるのかわからなければ、節約すべきか、どれくらい使っていいのかわかりません。
海光物産ではこれまでも自主的にスズキの漁獲量などを記録していましたが、持続可能な漁業をするためには少なくとも漁獲努力量などの様々なデータが必要です。
さらに、スズキはこれまで水産庁の資源評価対象魚種ではなかったため、東京湾のスズキの資源評価は千葉県水産試験場が主に行っていましたが、その精度はMSCの基準を満たすものではありませんでした。
2. 周囲の生態系に配慮していることを示す必要がある
大野さんはMSCの取得に挑戦する前から、抱卵・産卵期のスズキ、体長25cm未満のセイゴは獲らない、など自主的に管理をしてきました。しかし周囲の生態系へ配慮していることを公に示すには他の魚種や、操業による他の生物への影響について記録する必要がありました。
3. 管理体制に漁業者の声が反映されていることを証明する必要がある
大野さんと中村さんは千葉県の知事許可を得て漁業を行っています。船橋漁業協同組合の管理下にあるが故に、組合や千葉県がどのように生産現場の声を反映した管理体制と規則を作り、それが遵守されているかチェックするのか、そしてその見直しや意見交換が透明性を確保しつつ生産者を巻き込む形式で進められているのか、などを証明する必要がありました。これらは当たり前に行なっている行動ですが、誰にでも分かる形で証明しないと基準を満たすことができない実状があります。
こうした課題は漁業者だけでは解決できる問題ではありません。
そこで大野さんは、2021年にMSC認証を取得することを目標に、2016年に「東京湾スズキ漁業改善プロジェクト(東京湾スズキFIP)」を始めることにしました。