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再考! 水産業のサステナビリティ- CASSの「A Vision for Seafood(水産物に関するビジョン)」から読み解く-

サステナビリティの取り組みを確実に進めるためには目標設定が欠かせません。

しかし、その目標設定の大枠はどのように検討すれば良いのでしょうか?水産業の持続可能性を追求するグローバル・コミュニティ、CASS(Conservation Alliance for Seafood Solutios)が今年発表した「A Vision for Seafood(水産物に関するビジョン、以下新ビジョン)」を元に、世界基準の枠組とはどんなものなのか、このような枠組をどのように活用できるかを考えるセミナー「再考!水産業のサステナビリティ-CASSの「A Vision for Seafood(水産物に関するビジョン)」から読み解く-」を開催しました。


開催概要

日時:2023年6月2日 10:00-11:30
開会挨拶:花岡和佳男(株式会社シーフードレガシー代表取締役社長)
講演1:ライアン・ビゲロ氏(CASSプロジェクトディレクター)
講演2:高橋諒(株式会社シーフードレガシー企画営業部)
パネルディスカッション:ライアン・ビゲロ氏、高橋諒 (モデレーター花岡和佳男)


水産業界のマーケットトランスフォーメーション、大手で進展

花岡和佳男(株式会社シーフードレガシー代表取締役社長)

日本では、SDGsを推進してきた企業による取り組みが成熟しつつあり、持続可能な調達方針の策定や認証水産物の取扱増加、トレーサビリティの強化などが進められています。また、国際プラットフォームSeaBOSに参加して自社の調達状況を評価したり、競合他社との連携も始めている大企業もあります。

日本は世界第三位の輸入水産物市場をもち、グローバルサプライチェーンの企業の動きは、サステナビリティに取り組む国内外の水産現場にとってのインセンティブとなることが期待されますが、実際は、資源枯渇やIUU漁業の蔓延など、十分な結果が出ているとはいえません。これまでの取り組みを振り返り、今後の方針を定める上で、この新ビジョンが役に立つでしょう。


SDGsの達成を加速させる新ビジョン、その内容と策定の背景

ライアン・ビゲロ氏(CASS プロジェクトディレクター)

CASSは水産物に対する責任と持続可能性の追求を目的に130以上の組織が参加し、22か国で活動しています。2030年までに世界の商用水産物の75%以上が環境に責任を持って生産されている、またはそれに向けた改善が証明されるものになることを目標に活動しています。北米の小売業上位25社のうち80%がCASS加盟組織とパートナーシップを締結、EUでも小売り大手6社とパートナーシップを結んでいます。



CASSのメンバー組織・企業


CASSは2008年、最初の指針である共通ビジョンを公表しました。北米、欧州の多くのNGOがこれを受け入れ、クライアントである企業に紹介してきましたが、これは指針と言うより手順を示したもので、大きな意味でのビジョンが必要でした。また、共通ビジョンが策定された2008年から、サステナビリティをめぐる状況が大きく変化したこともあり、2023年に改訂することにしました。

新ビジョンは「水産物に関するビジョン」と現在作業中の「企業向けガイドライン」の2文書で構成されています。

「水産物に関するビジョン」には以下の特徴があります。


  • CASSのビジョンである「労働者や地域社会、および私たちの海全てが等しく繁栄できる環境の元で、水産際限が豊富な世界を実現する」を簡潔に示し、水産業界のどの立場の人にとってもわかりやすいものにする
  • CASSメンバーの分野、地域的に広範な専門知識や情報、また各組織、企業、NGOからのフィードバックに基づいて制定されており、複数言語で共有できるようにした
  • 今後のCASSの活動基盤となっている
  • 業界の様々な立場の人が理解できるよう、共通用語を用い、国連のSDGsの達成に貢献できる内容にしている


新ビジョンでは水産物をグローバルフードシステムとして捉えています。そのため、他業界とともにSDGs達成に向けて連携が取りやすくなることが期待されます。また、サステナビリティに関する野心的な目標と現実とのバランスを見つけるツールとしてや、自社のサステナビリティに関する

動がSDGsに合致しているかの確認にも活用できます。
新ビジョンは、水産業の課題を、簡潔なSDGsの各目標の説明とともに解説し、事例集も掲載しています。ビゲロ氏はリスクをチャンスに変えるヒントとしても使える、と話しました。

水産物に関するビジョン:
https://solutionsforseafood.org/wp-content/uploads/2023/04/VISION-for-Seafood-Apr2023-JAPANESE.pdf


新ビジョンは包括的アプローチの参考書

高橋諒(株式会社シーフードレガシー企画営業部、新ビジョン策定のワーキンググループに参加)

日本でのSDGsへの関心は非常に高く、日本企業の取り組みは様々です。食品ロスの削減に向け規格外の食品を使う取り組みや、流通・外食産業で水産物の国際認証の導入も進んでいます。持続可能な水産物やIUU漁業排除へアプローチする企業も多く、脱炭素社会に向けて漁船の燃料効率改善に取り組む企業もあります。

これらの取り組みはSDGsの一側面にとどまる場合も多いようです。現代社会が抱える問題には気候変動や生物多様性、環境破壊といった環境課題、貧困や飢餓、児童労働やディーセントワークなどの人権・社会課題があり、どれも企業の事業活動にとってリスクとなりえます。将来的なリスクを特定し、一側面でなく包括的にアプローチする必要があります。

新ビジョンでは、この包括的なアプローチを基軸としています。例えば、気候変動に対する取り組みを環境破壊、さらに人権侵害、最終的には、すべてのリスクへ、点から線、線から面に広げるという考え方です。

水産物のサステナブル認証が日本でも広がっています。しかし、認証を取得するために必要なデータや国際的な管理の枠組みが整っていないことから認証取得に至らない漁業もあります。そのため、ベストプラクティスであることを認証スキームに頼らずに担保する方法を探す必要があります。

SDGsへの取り組みが単発にとどまる企業にとって、新ビジョンは包括的なアプローチの参考書となります。2030年目標に向かって責任ある取り組みを実施するには目標や目的を示したロードマップが不可欠。課題は多く、1社で取り組むのは困難です。水産物を調達する企業であればサプライヤー、水産業に投融資する金融機関なら専門NGOに意見を求めるなど、協働したほうがよいでしょう。


パネルディスカッション

最後に花岡をモデレーターとしてビゲロ氏、高橋によるパネルディスカッションが行われました。

Q1)新ビジョンへの各国の反応はどうか

ビゲロ氏)消費地である欧州や北米、日本では好反応であるものの、水産物の生産地である東南アジア等の反応は鈍い。こうした地域では生活習慣、経済状況が異なり、SDGs活動でボランティアは期待できない。持続可能な水産物のコストはシステムの最下層の人々に負わせるのでなく、サプライチェーン全体が担うべきだ。

Q2)日本の企業や組織は新ビジョンをどのように活用できるのか

高橋)アプローチは2つ。まだ持続可能な調達方針やロードマップを作成していない企業は新ビジョンをベースにそれらを作ることができる。すでに調達方針がある企業は、新ビジョンを参考に追加、変更できる。ESG投資の際、機関投資家が確認する項目でもあるので、ぜひ新ビジョンを活用してほしい。

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