catch-img

(CEOブログ)「International Congress Conxemar FAO」に参加してきました


シーフードレガシーCEOの花岡和佳男です。

2023年10月2日にスペイン・ヴィーゴで開催された、水産業界における環境持続性や社会的責任の追求をテーマとする、第11回「International Congress Conxemar FAO」に、ご招待を受けて登壇してきました。この会議は、ヨーロッパのConxemar(スペインの漁業・養殖業者、水産業界の卸売、輸出入、加工製造業者による協会)とFAO(国連食糧農業機関)による共催で、水産加工・卸売業の課題を分析し、多面的なサステナビリティを実現することを目的として開催されています。

https://www.conxemar.com/en/congreso-2023/    



第11回「International Congress Conxemar FAO」への参加

私は今回が初めての参加でしたが、当社と日経ESGとで開催している東京サステナブルシーフード・サミット(TSSS)を日本発のグローバル・フラッグシップ・イベントとし、水産バリューチェーン上の多くの企業が川上・川下の両方向から主要課題の解決にアプローチする日本のムーブメントと、通ずるものが多くあることを感じました。今年、私はパナマ、ボストン、バルセロナ、バンコク、香港、シンガポールで開催された関連イベントに登壇し、現地の動きに触れてきましたが、このヴィーゴでのムーブメントが最も強く親近感を覚えるものでした。

一方で、水産資源管理においては、認証スキームが適さない小規模漁業におけるサステナビリティの改善をいかに政府や大手企業が支援できるかに焦点が移っていること、業界全体からの最大の注目点がバリューチェーンにおける労働者の人権や労働環境など社会的責任の追求であること、そしてマルチステークホルダーが「北極星」として共通認識する強力な国際機関(FAO, ILO(国際労働機関), IMO(国際海事機関)など)がステークホルダーのすぐ近くに存在することなど、日本のムーブメントとのフェーズやベースの違いを感じもしました。2週間後にTSSS2023の開催を控え、1年後に節目となるTSSSの第10回目の開催を控える身として、とても実りの多い経験でした。

この会議で開催された「小規模漁業における資源管理の未来」のセッションには、サステナブル・フィッシャリーズ・パートナーシップのエンリケ・アロンソ・ポブラシオン氏が、また「バリューチェーンにおける社会的責任の追求」のセッションには、シーフード・エシック・アクション・アライアンスのアンディ・ヒックマン氏が、それぞれご登壇されました。

お二方とも、2週間後に東京で開催されるTSSS2023でのご登壇が確定しており、その際はぜひ日本のステークホルダーの皆様にご紹介させていただきたく思っています。


活気に満ちるEU有数の主要漁港都市

ヴィーゴはEU有数の主要漁港都市であり、EUの漁業管理を統括する「European Fisheries Control Agency (EFCA)」が拠点を置き、水産首都とも言われる街です。会議翌日からは、約700社が展示ブースを構える第24回「International Frozen Seafood Exhibition」が開幕。ブース一つ一つのスペースが広く内装も凝っていて、試食やアルコール等の提供が豊富。だから人がどんどん集まってきます。ちなみに、私もたくさんのブースを訪れましたが、その多くでサステナビリティやトレーサビリティは標準装備でした。https://www.conxemar.com/en/feria-2023/



この活気はイベント会場内にとどまりません。街のホテルはどこも満室。飲食店も予約が必須。漁港ではこのイベントに合わせるように複数の巨大底引網漁船が何ヶ月にもわたるイカ漁の操業を終えて帰港。お洒落な旧市街の一角では、水産関連企業の経営陣と会議の登壇者によるネットワークの場として開催されたレセプションが、とってもハイセンスでゴージャス。

うわべのから騒ぎではない、底力のある上品な盛り上がり。水産ビジネスが成長産業であり潤っていること、ベテランの経営者も若い従事者も仕事に誇りややりがいを持って楽しんでいることが、伝わってきます。日本の水産社会や経済にも、環境持続性や社会的責任の追求を通して、この安定感の上に生まれる躍動感や「やってやろうぜ」感が戻る日が来るといいですよね。

現地の知り合いからの紹介で、日本の水産貿易企業に長年務めていらっしゃる外国の方と出会い、意見交換をしました。曰く「日本の水産バリューチェーンはまだ川下企業が社会的責任を川上に転嫁しているだけ、だからなかなか本質的に進まない。スペインでは川下企業がその責任を自らに課し、それをイノベーションの糧にしているところが出始めている。企業同士が協働体制を築き、業界全体としてまとまって前進できる。」「スペインの企業も少し前まで責任転嫁ばかりだったし、今でもまだできていないところは多い。でも日本の水産関連企業群はもっと外を見ないと、いよいよ危ないよ。自分の会社の経営層にも言っていることだけど、例えばスペインをライバルとして見てみてはどうかな。学べるものは大きいよ。」「TSSS2023はよく練られたとても良いプログラム。まさに日本企業群が本腰を入れてアクションを起こしてていかなくてはいけない分野だね。日本の同僚たちに絶対に参加するよう伝えておくね。」


水産市場でのトレーサビリティ

上記アンディからのお誘いを受け、ヴィーゴの水産市場の早朝視察もしてきました。特筆すべきは魚種の多さもさることながら、何よりトレーサビリティ・システム。消費地市場の役割を持つこの市場では、各地から集められた水産物にロットごとにQRコードが貼られていて、それをスマホで読み取ると、いつどこで誰によりどのように獲られたのかが一目瞭然です。

また、市場で働く方々にお話を伺うと、IUU漁業等の問題、資源管理や輸入規制等の中身、市場が持つ役割と責任について、皆さんホントわかりやすく熱を込めてお話をしてくださいました。ヴィーゴでもかつては無責任な水産物が蔓延していて、それを見て見ぬふりをする流通が主流だったとのことですが、この意識の変革や知識の浸透の片鱗に触れて、「日本でも」とまた希望が膨らみます。



近隣の小規模漁港と産地市場も視察

別日に上記エンリケのいるSFPからのご招待を受け、ヴィーゴ近郊の小規模漁港と産地市場も視察してきました。

漁協長がまず説明してくれたのは、徹底した漁業や漁場の管理計画。これがあるからこの海は魚で溢れている、漁業者は1日数時間海に出るだけで豊かな暮らしができる、ライフワークバランスが保てる、と胸を張ります。  

漁業者は複数の漁業ライセンスを持つことができますが、1日に行うことができるのは事前登録した1漁業のみ。事前登録はATMのような機械に自分のカードを刺して画面上で漁業を選択するだけ。

ちょうどダイビング漁でマテ貝を獲る漁業者が帰ってきました。「2時間で網袋いっぱい、まあまあかな」と笑顔。他にもタコ、カレイ、エイ、アンコウ、ベルベットクラブなど多様な魚が時間ごとに運ばれてきます。漁港従業員の監視のもと漁獲物を体重計に載せると、トレーサビリティに必要な情報が記載された防水仕様の紙が、自動的に発行される仕組み。



セリは、高い価格から始めて徐々に価格を下げ、最初に手を挙げた人が出品物を手にできる「せり下げ式」。価格はスクリーンに表示され、参加者はスマホを使って参加。事前登録からセリまで一連のプロセスがとにかく効率的、シンプル、ユーザーフレンドリー。

漁港や産地市場の運営には、漁業者の利益の6%があてられます。施設も機材も人員もかなりコストがかかっていそうだねと感想を述べると、そこはガリシア政府やスペイン政府だけでなくEUも相当支援してくれるとのこと。確かに、建物の壁にもその中の設備や機械にも、あらゆるところにEUのロゴが貼られてあります。規制も厳しいし変革も早いけど、実施支援が充実しているからこそ、両輪が回り前進していくのですよね。

管理強化にせよデジタル化にせよ漁業者からの抵抗はなかったのかと伺うと、もちろん新しいシステムを導入するときは抵抗がつきものだけど、何度も新しいことをしてきて、その度に生活が良くなっていくから、今はみんな自主的に改革を加速させているよとのこと。その漁村のレストランでシーフード・ランチをいただきましたが、街の余裕というか、自信というか、とても良いローカルな時間が流れていました。



EFCA訪問で触れた規制当局の絶対軸

最終日はヴィーゴ中心地にあるEFCAのExecutive Directorを訪問。水産資源管理における漁船の位置情報や漁獲情報の自動的報告と一括管理の体制構築、IUU漁業対策としての輸入規制における漁獲証明書の電子化の動き、現場ステークホルダーが協力する規制の導入方法などについて、意見や情報を交換するお時間をいただきました。「新たな規制の導入に現場が抵抗するのは当然のこと、難しいよね。でも規制当局は何が真の公共の利益なのかを絶対的な軸にして、利己的理由でそこからはみ出る人がいなくなるような体制を作らなきゃ。新たなルールが現場に浸透するのには何年かはかかるものだけど、慣れてきたら現場こそがその恩恵を最も得ることになる。ここでは、もちろんまだ完璧ではないけど、その繰り返しだよ。」



TSSS2023の会場で、皆様とお会いできることを楽しみにしています。

磨き上げられた魚食文化と巨大水産市場、そして豊かな生態系と厳しい管理の基礎に成り立つ多様な漁業。今回このヴィーゴ出張で学んだイニシアチブ、築いたネットワーク、そして感じた肌感覚も、早く帰国して皆様と共有したい気持ちに溢れています。
TSSS2023の会場で、皆様とお会いできることを心より楽しみにしています。
4年ぶりのフルリアル開催、参加費無料、レセプションもあり、ぜひ事前登録の上ご参加ください!



(おまけ)ヴィーゴの消費地市場の施設の外に出ると、空は陽が明ける直前。鷹匠のような方が猛禽類(ホンモノ)を飛ばしていて、驚きました。観光客へのエンターテインメントではなく、カモメやウミネコが水産物に寄ってこないようにすることが目的で、ドローンでは効き目が薄く、試行錯誤の末にこの形が導入されたとのことでした。



ページトップへ戻る