catch-img

日本の養殖水産物マーケットが成長するには?


養殖水産物は世界全体で生産される水産物のおよそ4割*を占め、人口増加による食料需要増に伴い、今後も増産傾向が続くと見られています。一方で、養殖業には飼料の原料調達を始めとしたサステナビリティ、レスポンシビリティに課題があります。


そこで、スクレッティング株式会社、水産養殖管理協議会(ASC)、株式会社シーフードレガシーは、日本の良質な水産物を持続可能な形で国内外に拡大していくために何が必要かを業界関係者の方と検討していくため、セミナー「日本の水産養殖の未来を考える」を共催しました。(開催日:2024年2月16日、場所:福岡県のグランドハイアット福岡)当日は、国内の水産養殖サプライチェーンの企業の方など約100名が参加しました。


国、水産庁も輸出を後押し

まず、冒頭にスクレッティング株式会社の伊藤良仁相談役(前社長)、朴基顕(パク・キヒョン)新社長から開会挨拶があり、その後、水産庁 栽培養殖課 養殖指導班経営係の小松大樹氏が基調講演「日本の輸出戦略 」を発表。日本の養殖水産物の状況、国や水産庁の取り組みを紹介しました。


日本の養殖水産物は市場価値が上がってきており、2022年の実績は前年比3割増の3,800億円でした。国も、農林水産物や食品の輸出促進を目的に「農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律」を令和2年に施行し、水産庁は同年、これを基に、輸出拡大のための戦略である「養殖業成長産業化総合戦略」を施行しています。


この戦略では、ブリ類、マダイなどを戦略的養殖品目**と定め、品目別に輸出量・輸出額の目標を設定。さらに国内外のマーケットシェア拡大のため「マーケット・イン型養殖業」***を推進していこうとしています。水産庁では、この「マーケット・イン型養殖業」の推進や、新技術や代替飼料の開発など、養殖業の成長に関する補助メニューを多数用意しているので活用してほしい、と小松氏は話しました。


海外展開するには、まず行動の言語化を

次に、あづまフーズ(株)販売事業部 東京支店 支店長の久米 尚氏が登壇。同社はたこわさびなど水産物の加工販売を行っています。講演では、20年海外営業を勤めている久米氏から見た欧米のマーケットや消費者の違いが紹介されました。


欧米の大手小売では、サステナビリティを担保する認証が調達目標や、調達条件の一つとして組み込まれています。また、認証品を調達する以外にも、販売する製品量を最初から多すぎず、少なすぎない量にして販売している例もあります。


各企業がそれぞれの方法でサステナビリティに取り組んでいますが、共通して日本と異なるのは、自分たち(大人)が荒らした海を次世代にどう残すかを考えていること、食品ロスを減らし、その取り組み自体を評価していること。このような考え方が浸透しているマーケットで、日本企業が海外輸出を拡大するには、大人が襟を立て、行動を言語化することが大事、と久米氏は話しました。


あづまフーズ(株)販売事業部 東京支店 支店長 久米 尚氏


NGOと協働でPR

次に、Indoguna Singapore Pte LtdのRegional Business Development Manager、Makiko Karasawa氏が登壇。同社はタイ最大のコングロマリットCP(チャロン・ポカパン)グループの孫会社で、主にアジアや中東地域向けに認証品を含む水産物の卸売を行っています。Karasawa氏は各地のサステナブル・シーフードのマーケットの状況を紹介しました。


東南アジアでは、コロナ禍では安さ重視のためサステナブル・シーフードのニーズが減りましたが、現在は戻り、今後はサステナビリティに対する意識が高まっていく可能性が十分にあると語っていました。香港では、サステナブル・シーフード市場の拡大を目指すプラットフォーム、HKSSC (Hong Kong Sustainable Seafood Coailition)にも所属しており、外資系ホテル、大手小売、ディズニーランドなどのエンターテイメント施設がサステナブル・シーフードを積極的に調達しています。中東地域では、マリオットやエミレーツ航空とともにサステナブル・シーフードを導入し、SNSを使ってPR活動をしています。


このように様々な地域で事業を行う中で見えてきたのは、NGOと一緒に販売促進やPRをすることの重要性です。日本も、例えば国際海洋デー(毎年6月8日)など、もっとPRの機会を活用した方が良いと話しました。


Indoguna Singapore Pte LtdのRegional Business Development ManagerのMakiko Karasawa氏



最後は「求められる養殖水産物の要件とマーケットの展望」と題したパネルディスカッション。各登壇者が普段の取り組みを紹介した後に、養殖水産物、特にサステナブルな養殖水産物のニーズやマーケット拡大についての議論がなされました。


<登壇者>
(株)マルキン常務取締役  鈴木 真悟氏
宮城県女川町でギンザケの養殖加工販売、カキ、ホタテの加工販売。2020年、日本初のギンザケでASC認証を取得。

浦田水産(株)代表取締役 浦田 昌輝氏
熊本県天草市でマダイ、シマアジを養殖。2021年、マダイでASC認証を取得。

グランドハイアット福岡 総料理長 野島 茂シェフ
2022年にMSC/ASC CoC認証を取得。グランドハイアットはグローバルでも2012年からWWFと協 働し、サステナブル・シーフードの調達や拡大に取り組んでいる。

(株)セブンイレブン・ジャパン  商品本部デイリー部 原材料設備サポート部 チーフマーチャンダイザー セブン&アイグループ環境部会プラスチック対策チームサブリーダー 八木田 耕平氏
持続可能な調達目標を含む、Green Challenge 2050を策定。現在も目標達成に取り組んでいる。

<ファシリテーター>
ASCジャパン ジェネラル・マネージャー 山本光治氏


左から山本氏、鈴木氏、浦田氏、八木田氏、野島シェフ


鈴木氏、浦田氏はASC認証取得について、審査に必要な情報収集や設備投資をしなければならず、取得後も認証維持費が発生しているが、認証を取得したことで販路が拡大し、現場の意識が向上した、とメリットを話しました。さらに、養殖は「人間」が育てる「責任ある」取り組みであり、課題をどうやって改善したのかを一般の人には難しくても、バイヤーの方には知ってほしい、ほとんどの魚種は育つのに1年以上かかるので長期的に取り組みをサポートしてほしい、と話しました。


これに対し、八木田氏が「流通小売側も長期的なサポートを望んでおり、不確実性を回避できるものに期待している」としました。一方で、最近の消費者の消費動向については「責任ある消費やエシカル消費へのニーズは高まっておらず、養殖物より天然物が好まれる傾向がいまだに強い。また、一商品あたりのライフサイクルが非常に短く、マス消費が難しい。この傾向に合わせずに、どうやっておいしさに付加価値をつけるかや、ブランディングが重要。生産者にはもっと取り組みをアピールしてほしい」と話しました。


続けて、野島シェフは、「認証水産物は使うことに責任感がもてるし、お客様には安心感、信頼感をもってもらえるのでありがたい。今は「おいしい」料理が前提にあって、初めて付加価値になっているが、サステナブル・シーフードが広がればそれも難しくなる。今後は『認証+α』があると良い」と話しました。


ファシリテーターの山本氏は最後に「持続可能な水産物を生産/販売する取り組みが国内で広がる中、認証水産品を付加価値の1つとして位置付けられるよう、認証に伴う現場の変革/インパクトをもっとストーリーとして発信していく事が重要です」と話し、セッションを締めくくりました。


水産サプライチェーンがもつ課題を解決するには、特定の企業や業界だけが努力するのではなく、サプライチェーン全体で協力して価値を発見し、積極的にアピールしていくことが、国内の市場拡大、ひいては輸出拡大のための必須条件なのではないでしょうか。


------------------------------------------

The State of World Fishers and Aquaculture 2022, FAO, 2022
** 将来、国内外で需要が量的・地域的に拡大が見込まれる、かつ現在又は将来の生産
環境を考慮して我が国養殖業の強みを生かせる養殖品目(養殖業成長産業化総合戦略(水産庁、令和2年)より)
*** 「マーケット・イン型養殖業」とは、売り先のニーズをとらえながらサプライチェーン全体で協業して生産・販売すること。例:複数の養殖業者が協力して販売委託契約をする、など。

ページトップへ戻る