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持続可能な水産調達に向けて〜責任ある調達方針策定の必要性とは〜:連続ウェビナー第2回 報告ブログ

主催:株式会社シーフードレガシー
進行役:株式会社シーフードレガシー 企画営業部 髙橋 諒


連続ウェビナー「サステナブル・シーフード・ゼミナール〜環境や人権に配慮したサプライチェーンをつくるには〜」は、全4回を通して水産物を取り巻く環境を理解し、水産サプライチェーンの改善方法や実践方法を学べる講座です。
 
 
国際的にもサプライチェーン上で人権侵害を排除する動きが加速しており、世界中で法整備が進められています。2022年9月27日(火)に行われた第2回目の講座では、水産関連企業に求められる対応策などについてご紹介しました。


「水産業における人権侵害のリスクとは」

講演:株式会社シーフードレガシー 企画営業部 髙橋 諒

◆ビジネスと人権
近年、企業と人権問題の関わりが非常に注目されています。例えば新疆ウイグル自治区での人権侵害に関わりのある企業が、シンクタンクやNPOなどによって会社名を公表された事例がありました。そして米国税関国境保護局(CBP)は新疆ウイグル自治区が関与する製品の輸入を原則禁止する法律「ウイグル強制労働防止法」を施行し、日本の一部企業においても新疆ウイグルからの原料調達を禁止するなどの対応を取りました。
 
◆増え続ける現代奴隷
現代奴隷は4,000万人を超えると推定されています。



上記のように全体の42.5%が食品等の業界と関わっているため、自社のサプライチェーンでリスクを完全に排除することを目標として、企業は行動を起こしていく必要があります。
また、人権侵害に加担してしまうことで評判低下などのリスクや財務リスクに繋がってしまうため、近年企業による人権デューデリジェンスの関心が高まっています。
 
◆人権侵害と水産業の関わりと必要なアクション
水産物のサプライチェーンにおける人権侵害は、漁船上や養殖場といった生産現場から加工工場内、違法な洋上転載時など閉鎖空間で横行しています。こうしたリスクがある中で企業は社会的責任を果たすために、どのように対策していくべきなのでしょうか。

アメリカのウォルマート社では、自社商品における人権方針を定めています。また、こうした自社の方針をサプライヤーに理解してもらい、かつ問題が発生した時に責任の所在を明らかにできるようStandards for suppliersという基準を設けています。
 
自社のサプライチェーンにおける人権侵害の排除に向けたアクションとは一体何でしょうか。企業が関係しうる人権侵害は
(1)サプライチェーンの原材料調達(2)業務委託先やサプライヤーの工場(3)国内の外国人労働者や海外拠点における移民労働者、の3つのフェーズで起こり得ます。自社で責任ある調達に向けたコミットメントを示す、または人権デューデリジェンスを実施するなどのアクションが求められています。


「人権デュー・ディリジェンスの実施」

講演:FishWise ソーシャル・レスポンシビリティ・チーム シニアプロジェクトマネージャー ナハラ・アチ氏


FishWiseは、企業、市民社会、政府と協力し、世界の水産物のサプライチェーンを変革することで、海洋生態系とそれに依拠する人々の持続可能性を確立することを目指しています。環境に関する目標の達成と社会的責任の遂行は、相互に補い合うものであり、真に持続可能な製品を確保するために不可欠です。FishWiseは、企業の社会的責任についての目標達成を支援するため、ウォルマート財団の支援により作成された無料のオンラインプラットフォーム「Roadmap for Improving Seafood Ethics(RISE)」を作成し、企業がロードマップを実現するためのコンサルティング・サービスを提供しています。

セミナーでは、FishWiseがビジネスパートナーと段階的に社会的責任の向上に取り組んだ事例が紹介されました。FishWiseとそのパートナーは、コミットメントの策定、問題意識の所在確認やRISE eラーニングを通じた企業内およびサプライチェーンのキャパシティ向上、アンケートや検証による人権・労働権侵害のリスク評価、政策提言の機会や協力できる分野の特定、改善方針の策定、そして取り組みに関する情報発信を共同で行ってきました。この作業は反復的なものであり、FishWiseはこのパートナーが改善を続けていくためにデューデリジェンス計画と戦略の策定を支援しました。この会社は、国際NGOであるグリーンピースが実施する量販店のスコアカードで常に上位にランクインしており、その努力が認められています。


「社会的課題のリスクアセスメント(SRAのご紹介)」

株式会社シーフードレガシー 取締役副社長 山内 愛子

本セクションでは実際にリスクアセスメントを実施する際の一つのツールであるSRA(Social Responsibility Assessment)をご紹介しました。水産業における人権問題を見るにあたっては「モントレー・フレームワーク」が非常に重要なポイントとなります。これは学術機関や業界団体、NGOなどからなる21の団体と33名が連携して水産業界における社会問題などを包括的に定義した枠組みのことで、以下の3つの原則から成り立っています。
(1)人権、尊厳、リソースへのアクセスを保護
(2)平等性と便益獲得の公平な機会を保証
(3)食料と生計手段の保証を改善
 
SRAはこの「モントレーフレームワーク」に基づいて作成されています。また、ルーツ自体は特定の漁業の規模に対応するものではなく、コミュニティ主導の小規模漁業から産業規模の大きな漁船漁業、また養殖業など全ての漁業形態に適用できるように作成されました。
 
◆SRAの概要
 SRAを使う目的は以下のようなものがあります。


SRAツールは認証ではありませんが、別のソーシャルプログラムへの認証取得を容易にする改善を特定して行うために使用できます。
 
SRAはモントレー・フレームワークの三原則をもとに詳細な項目へと分かれます。大きな目的から細分化して、最終的に実行可能な形、または客観的に評価が可能な形に落とし込んでいます。
こうした取り組みは一朝一夕には結果が得られるものではありませんが、時間をかけてどのように改善していくのかなど客観的に計画を立てるために細かくみていく必要があります。
 
◆SRAをどのように使うか
このツールを使うときに非常に重要なのは「サプライチェーンに問題がないことを目指して使うのではない」、つまり、問題があるという前提で取り組むことが必要です。
そして生産者、サプライヤー、多様な関係者と課題を共有し、それを解決するために改善策を立てていくことも重要なポイントとなります。


Q&Aセッション

Q1. コミットメントにおいて具体的な期間や特定の商材・業種などの設定をする必要性とは何か。またこれらをどのように決めていけば良いのか
 
全てのシーフードサプライチェーンには人権や環境問題などのあらゆるリスクがあります。そのため、サプライチェーン全体で取り組むために包括的にコミットメントする必要があります。人権デューデリジェンスプログラムは具体的に内容を策定していく中で、評価の結果に基づいて優先的に取り組むべき課題を決めることに役立ちます。
 
Q2. 水産業に関するサプライチェーンはかなり複雑になっているが、まずはどのサプライチェーンから手をつければ良いのか
 
Q1にもあったように、まずサプライチェーン全体に対して改善していくというコミットメントを持ってもらいたいです。どこからスタートするかについては状況によって異なりますがまずは「責任ある雇用」がなされているか見てもらいたいです。労働者の声をしっかりと拾えるのか、ディーセントワークが実現されているかなど、こうした点から始めても良いのではないでしょうか。
 
Q3. 人権リスクは常に変化するものであるが、どのように情報収集していけば良いのか。またそうした面でサポートはしてもらえるのか
 
情報収集においては①他のデータと相互参照して比較すること②労働者の声や視点を取り込むことが重要となります。情報の正確さ、直接労働現場で得たデータを元に判断します。FISH WISEはそうした支援もできます。
またシーフードレガシーでも人権問題等のサポートサービスを展開していきます。


今回はサプライチェーン上に多く存在する人権侵害問題、そして企業としての対応策について学びました。水産サプライチェーンは、川上から川下まで多くの関係者が関わり、複雑になっています。そのため人権問題の解決に向けては、人権DDを通じたサプライヤーとのコミュニケーションが重要となります。今回ご紹介したような国際基準を満たしたツールを活用しながら少しずつでも取り組みを進めていくことが企業の信頼度、そして経営のサステナビリティにつながっていくでしょう。

次回の開催は12月を予定しています。次回以降のウェビナーにご参加いただく際はこちらのページからご登録をいただきシーフードレガシーのフォローをお願いいたします。(Peatixに飛びます)。セキュリティの都合でお申し込みできない方はこちらのメールアドレスまでご連絡ください。

企画営業部 髙橋 諒:ryo.takahashi@seafoodlegacy.com


(文・図:長澤 奈央)



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