catch-img

サステナブルな未来に向かって アジアのシーフードマーケットから日本のシーフードマーケットの未来を考える

こんにちは。株式会社シーフードレガシー 企画営業部の高橋 諒です。
先日シンガポールにて開催されたAsia Seafood Expoに当社CEOの花岡と、企画営業部の孫の3名で参加をしてきました。

私がExpoに参加をした目的は
①アジアのサステナブル・シーフードムーブメントについて調査し、当社サービスであるマーケット・トランスフォーメーションに活かす情報を持ち帰ること
②私が運営している定期セミナーのサステナブル・シーフードゼミナールにて海外企業の先進事例を取り上げるためにNGOや企業との関係性を構築すること
の2点でした。今回Expoに参加した花岡の個別記事もぜひ合わせてご覧ください。


海外NGOとのミーティングから知る日本市場の関心度合いの高さ

初日に私と花岡はWWF Singapore事務所に伺い、WWF Singaporeとの協働の模索と、2022年10月から新体制となったGlobal Dialogue on Seafood Traceability(以下GDST)メンバーとのミーティングを行いました。

GDSTは、​​水産物のトレーサビリティの国際標準をつくるために設立された企業間プラットフォームです。GDSTは水産物トレーサビリティの国際的な規格として様々な組織やプラットフォームに採用されており、エンドマーケットでは、ドイツのスーパーマーケットのMetroやアメリカテキサス州のWhole Foodsなどが、食品企業ではCargillなどが自社の調達方針にGDSTを組み込んでいると聞き、グローバル企業のトレーサビリティに関する高い関心を知りました。

また、GDSTメンバーは水産主要生産現場であるアジアや日本にどのように浸透させていくべきなのか強い関心を持っており、私たちは日本企業の大手水産商社や大手量販店などのマーケットのバイイングパワーを用いてGDSTを真のグローバルスタンダードにするためにどのように活動していくべきかといった話をしました。

午後はSeafood Expoの会場に行き、国際的に活動をするアメリカの非営利機関であるSustainable Fisheries Partnership(以下SFP)のメンバーとミーティングを行い、日本市場におけるSFPとの日本市場における連携や、SFPが運営しているイカ製品の持続可能性を模索するラウンドテーブル「Global Squid Supplychain Roundtable (GSSR) 」の取り組みについて話を聞きました。



イカ類の主な生産地は、南米(ペルー、チリ、アルゼンチン)やアジア(日本、中国、韓国、インドネシア)ということもあり、SFPでは日本のスルメイカにおいてどのように今後、持続可能性を構築していくべきかといった点に非常に関心を持っていました。また、私が担当するプロジェクトである「サステナブル・シーフードゼミナール」で2023年1月下旬開催を予定している「主要魚種スペシャル回」について打ち合わせをしました。このスペシャル回では、海外先進事例のご紹介とイカの責任ある調達において日本がとるべきアクションについて取り上げる予定ですので、こちらも弊社メールマガジンやPeatixでの告知をぜひ楽しみにお待ちください。

その他にも、Expoでのカンファレンスで様々なNGOとお話しをしましたが、どの方とお話しをしても日本市場の取り組みに関して非常に高い関心を持っていました。また、今回お話しをしたNGOの方々が日本のバイイングパワーを用いて、生産現場を変えるムーブメントを起こそうとしており、マーケットトランスフォーメーションの意識の根幹を学ぶことができ、とても刺激的でした。


認証品だけでなく、様々な仕組みを活用し責任ある調達を実現する企業間連携

期間中のカンファレンスでも持続可能性に関する多くの話題が取り上げられており、中でも二日目は、インドネシアのキハダマグロやタコ漁業のFIPへのESG投資に関する話や、MELやGSAやRFM(ASMI)などの第三者認証の取り組みについて紹介があり、そしてGDSTやSFP/SFL(花岡)からはトレーサビリティの構築や水産サステナビリティの実践論について、持続可能性に関するセッションが一日を通してありました。私は一日中カンファレンスブースにおりましたが、同じような方もたくさんいらっしゃいました。

中でも、第三者認証はベストプラクティスだが、認証取得が難しい魚種に対して使用をやめるのではなく、どのように企業・NGO間で連携を行い、持続可能性の構築に向けたアプローチをしているのかといったことを発表していたセッションがとても多かったです。周辺水域に水産資源が約3,700種生息していると言われる日本においても、今当たり前のように食べている魚が50年後、100年後の未来でも当たり前に食べ続けていくためには、いずれもとても必要な取り組みだと思いました。


シンガポールの水産市場から見る日本市場との共通点

さて、話は変わりますがExpoの合間を縫って、シンガポールで主要な量販店をいくつか回ってきました。私の目的の2点目の「海外企業の先進事例」を知るためです。
私のブログでは3つほど軽くご紹介をさせていただければと思います。

①Cold Strage


DFI Retail Groupがシンガポール国内で50店舗展開しているスーパーマーケットCold Strageでは日本のイオンを彷彿とさせるようなバラエティに富んだ品物が並んでいました。




鮮魚も多く並んでおり、同じ店舗に夕方行った時はほとんど魚が売り切れてしまっていました。認証水産物としてはMSC/ASC/BAP認証を取得したスモークサーモンが売り場にありました。



②Giant



Cold Strageと同じくDFI Retail Groupが展開するファミリープライス向けのスーパーマーケットGiantは国内62店舗展開しています。CSとの兄弟会社ということもあり、鮮魚売り場だけでなく、海老やカニカマなどの冷凍品も非常に充実していました。ただ、私が視察した店舗では認証水産物は見かけませんでした。



③DON DON DONKI



日本のパンパシフィックインターナショナルホールディングス(PPIH)が展開する日系スーパーマーケットのDON DON DONKIも視察してきました。日本で加工されている水産物が多くあったり、海鮮丼や刺身盛り合わせなど生鮮水産品のバラエティが非常に豊富で、売り場はとても賑わっておりました。



国内で流通する水産物の約90%を輸入に頼るシンガポールですが、生鮮売り場ではどのお店も鮮魚は置いているものの、ほとんどの魚に原料原産国の記載がありません。ただ、店頭の方に尋ねてみたところ、基本的にどのスーパーでも原料原産地を全て答えることができ、売り場の方々は常に情報を把握しているものの、そこまで原産国にこだわる客もいないと教えてもらいました。置いてある水産物がどこから来ているのか、どういった生産現場のストーリーを経て目の前に並んでいるのか、ということに関する消費者の意識や関心が低いように感じました。また、アウトパック品を含め認証水産物が少なかったことから、シンガポールにおける認証水産物市場の成長はまだまだこれからだと感じました。

その他にもFair PriceやSheng Siongなどの店舗を回りましたが、鮮魚は多少置いているものの、どのお店も鮮魚よりも冷凍品の種類がとても充実しており、日本と同様に鮮魚を自宅で調理して食べる人が減っていると感じました。


個社ではなく企業間で連携を行い、責任ある調達を実現する

こうして量販店をいくつか見ていると、日本の取り組みは幾分進んでいるなと思いました。大手量販店に行けば必ずと言っていいほど認証水産物がありますし、エシカル消費者のニーズに答えられる売り場が近年形成されてきていると感じます。日本に戻ってからも調べてみましたが、視察した量販店や外食産業など、シンガポールで主要な最終末端企業のサステナブル・シーフードの取り組みに関して表立った事例は見つかりませんでした。

一方で、アジアのマーケットサイドの動きとしては、今回カンファレンスでも取り上げていたSFPが主導したフィリピンでの水産調達企業12社による責任ある調達に向けた共同声明発表イベントや、Ocean Outcomesが韓国で主催した韓国初の持続可能なマグロ漁業のためのラウンドテーブルが開催され、New England SeafoodやDongwonなどの大手水産企業が一堂に会し、中西部太平洋におけるマグロ漁業の管理とその運営改善を要望する共同声明の発表を行うなど、各国で持続可能な調達に向けた企業間の取り組みが加速しています。

大手末端流通企業が環境持続性や社会的責任を追求する水産物を求めることで、アジアの生産現場や流通企業が変わっていき、それを取り巻く政策や投融資機関も変わっていく。そんなムーブメントがアジア各国で起きていることを感じ、日本でもこういった潮流に取り残されてはいけないと強く思いました。
日本のマーケットトランスフォーメーションモデルがアジアでリーダーシップを発揮できるような未来に向けて今、私たちは歩み出している。今回のシンガポールのSeafood Expo Asia訪問で私はそう感じました。


文:高橋 諒

ページトップへ戻る