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CEOブログ:IUU漁業対策としての水産流通適正化法の施行開始を歓迎

シーフードレガシーCEO花岡和佳男です。

2022年12月1日、特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律(以下、水産流通適正化法)の施行が開始されます。これは、IUU(Illegal 違法・Unreported 無報告・Unregulated 無規制)漁業に由来する水産物の日本市場の流入阻止を目的とした法律であり、EUのIUU RegulationとUSのSIMP (Seafood Import Monitoring Program) に次ぐ、世界で3番目の包括的制度です。国際的に流通する水産物の半分以上を占める世界三大市場が揃ってIUU漁業にNOを言い、正当な事業者を不公平な競争から守る体制構築の一歩として、シーフードレガシーはこのイニシアチブを歓迎します。


国際社会が抱える緊急課題とIUU漁業

世界人口は2058年に100億人に増加した後、2080年代には104億人でピークに達し、2100年までその水準が維持されるとの予測が示されています。食料需要が増加する中、地球の表面積の7割を占める海洋における持続可能なフードシステムの構築は、国際社会が抱える緊急課題です。

しかし、世界の漁業資源は約3割が乱獲、約6割が満限利用の状態にあり、まだ余裕のある漁業資源は全体の1割以下で、その割合は減少傾向が続いています。養殖業もその多くが大量の餌を天然魚に依存しており、この課題を共有しています。

自然資本を枯渇へ追いやるような水産業のビジネスモデルはその破綻が指摘され、また世界の食料安全保障が脅威に晒されている中、この課題を解決すべく世界各地で様々な水産資源管理が実施されていますが、IUU漁業はその精神を蔑ろにし管理の網の目を抜けて行われるものであり、適切な資源管理の目的達成を阻む最大のリスクとなっています。世界の漁獲量の最大31%(重量ベース)が違法や無報告で漁獲されたものだとする推計もあります。


世界の水産資源の状態の推移(1974-2019年)
(The State of World Fisheries and Aquaculture 2022, FAO, 2022 Fig.23より。一部和訳、改変)


国内水産業にとっての水産流通適正化法の意義

持続可能な開発目標(SDGs)は、その目標14.4で「水産資源を実現可能な最短期間で少なくとも各資源の生物学的特性によって定められる最大持続生産量のレベルまで回復させるため、2020年までに、漁獲を効果的に規制し、過剰漁業や違法・無報告・無規制(IUU: Illegal, Unreported and Unregulated)漁業および破壊的な漁業慣行を終了し、科学的な管理計画を実施する」ことを掲げています。

世界2大輸入水産市場であるEUとUSは、先立ってIUU漁業対策としての輸入規制を行ってきました。世界第3の輸入水産市場(金額ベース)であり、IUU漁業対策に遅れをとっていた日本の水産市場はこれまで、欧米市場から排除されるIUU漁業に由来する水産物が大量に流入する脆弱性が指摘されており、正当な事業者による水産物とIUU漁業由来の安価な輸入水産物との不公平な競争の場となっていたことが考えられます。実際、2019年の「IUU漁業指数」で日本は、152か国中133位という低評価を受けました。

今回施行が開始される水産流通適正化法は、世界のIUU漁業の撲滅への貢献に加え、水産経済、地域社会、海洋環境の繋がりのサステナビリティを追求する国内事業者を守り、正直者が正当に報われる市場体制を整える役割を持つものであり、主要水産市場としての責任を果たす一歩だと、私たちは見ています。


IUU漁業撲滅へのネクストステップ

・法律はしっかり実施されて初めて効果を産むものであり、実効性のある管理規制体制の確立や、関係事業者の負担を最小限に抑えるための報告のデジタル化体制の構築などを急ぐ必要があります。また対象魚種においても、EUでは輸入全魚種、USでも輸入の約60%を占める13種が対象となっており、日本でも早急な拡大が求められます。日本政府は、この法律および施行における見直しを2年ごとに行うことをコミットしています。

・日本の水産流通適正化法施行開始を機に、世界の主要輸入水産市場によるIUU漁業撲滅に向けた連携の強化・拡大に、国際的関心が高まっています。本法が成立されて以降、世界7位の輸入水産市場であるオーストラリアでもIUU漁業対策としての輸入規制の導入に向けての検討が政府内で始められるなど、日本の動きは国際的な動きを加速させる引き金となっています。日本による国際連携の調整や引率に、世界各地から期待が寄せられています。

・事業者である皆様にとっては、水産事業や取引き先であるサプライチェーン企業、そして投融資機関などがIUU漁業に間接的、非間接的に加担してしまうリスクを排除し、企業の社会責任を全うするためにも、この法律の正しい施行とさらなる改善を積極的に支えることが求められます。さらに、フルサプライチェーンにおけるトレーサビリティ体制の確立がこれまで以上に期待されるようになります。世界から注目が集まる中、この動きは日本でもすでに始まっており、複数の国内小売企業や水産加工流通企業が、IUU漁業由来の水産物を取り扱わないことや、トレーサビリティ体制を確立することを、企業方針などに掲げています。

・IUU漁業の問題は「I:違法」の部分に焦点が当たりがちですが、水産経済、地域社会、海洋環境のつながりのサステナビリティを担保する上で、「U:無報告」および「U:無規制」も極めて重要です。特に国内漁業におけるIUU漁業排除や成長産業化には、この二つの「U」の解決が不可避であり、水産改革の足枷となる延命措置に当てられてしまっている多額の水産予算の活用の見直しが急務となっています。2018年に70年ぶりの大改正がなされた新漁業法で定められた、水産資源の持続可能な活用を目的とした新たな資源管理の、確実な推進が求められます。


水産流通適正化法の遵守は安心安全な商品の担保となる(写真:シーフードレガシー)


日本の水産業の生存・成長戦略

かつて世界最大の水産大国にまで上り詰めた日本はいま、生産構造の根本的再編を余儀なくされています。世界有数の輸入水産市場規模と豊かな海洋生態系といった日本が持つポテンシャルを戦略的に最大化させ、環境持続性や社会的責任を追求する水産市場への変容を達成することで、国内の水産経済や地域社会が潤いを取り戻し、人口増加に伴う食料不足に苦しむ国際社会に上質なタンパク源を持続的に供給し、国際社会の発展に希望の光を灯す。これが、日本の水産業界の根本的な生存・成長戦略であり、誇らしい未来の日本水産業の姿であると、私たちは考えます。

その実現に向け、シーフードレガシーはこれからも、地域社会、水産経済、海洋環境のつながりを象徴する水産物(シーフード)を豊かな状態で次世代に引き継ぐ(レガシー)ことをパーパスに、グローバルネットワークと専門知識を活かし、水産関連企業、金融機関、政府・国際機関、市民組織などに対するサステナブル&レスポンシブル・シーフードにおけるコンサルティング&プラットフォーミングを提供して参ります。



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