シンポジウム2017総括レポート−5 ホールBハイライト後編

シンポジウム2017総括レポート−5 ホールBハイライト後編

去る10月27日に行われた東京サステナブルシーフードシンポジウム2017より注目の分科会、ホールBでの模様を引き続きお伝えいたします!


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基調講演

トークセッション

分科会ホールAハイライト

分科会ホールBハイライト前編



「トレーサビリティの確立で違法漁業や労働問題から水産市場を守る」

二つ目の分科会は、オーシャンアウトカムズ副代表 兼 イノベーション戦略担当であるブライアン・カウエット氏のファシリテーションで、トレーサビリティ実現に向けてそれぞれの立場で活躍するお三方にご登壇頂きました。

まず日本をはじめ世界各国で暮らした経験のあるカウエット氏から、流暢な日本語を交えてロシア極東部における不法なイクラ漁、北朝鮮・中国の不法労働者問題、日本を含め世界各地で発覚する不法表示などの事例が紹介されました。また、そういった製品が日本を含む海外の市場にも流通している現状に触れ「日本のサプライチェーンはトレーサビリティ機能が限定的で、関税輸入規制が欧米に比べゆるい。日本のトレーサビリティ体制が試されている。その解決のためには政府、企業、漁業従事者、国際社会の協力が必要である」と背景事情の紹介がありました。


シンポジウム2017総括レポート−5 ホールBハイライト後編

手前:オーシャンアウトカムズ副代表 兼 イノベーション戦略担当ブライアン・カウエット氏


最初のパネリストとして、シアトルに本社をもち、水産物の安全なシステムを提供を食品業界に提供しているトレースレジスターから、品質保証兼カスタマサービスアジア統括マネージャー森田 佐世氏をお迎えしました。森田氏からは、トレーサビリティシステムが求められる背景と、そのソリューションをご紹介いただきました。

森田氏によれば、市場で求められるトレーサビリティとは、物流トレーサビリティに加え、質的(定性的)トレーサビリティ(品質、社会的責任など)があるそうです。これらのあらゆる膨大な情報を追跡する必要がありますが、サプライチェーンがグローバル化するほど、要件は多様化し、欲しい情報を欲しいときに集めるには膨大な時間と労力がかかります。また、時差、言葉、データ形式の違いから情報の欠如や間違いがみつかるのが現状。透明性が高く有益な情報を瞬時にひきだし、人件費の節約のためにもテクノロジーの力を借りることは不可欠となっています。米国のスーパーWhole Foodsは2018年1月までにツナ缶について自社のサステナビリティ基準を満たすことを宣言しており、実際にトレースレジスターのシステムを利用してその準備をすすめているとのことです。例えばIUU漁業問題は、スポットチェックではなく継続的にモニタリングする必要があり、システムを通じて問題が発覚すれば、すぐに改善要求が可能とのこと。テクノロジーの利用は、このように継続的なモニタリングを可能とし、リスクを回避し、問題を未然に防ぐことを可能にしていると紹介しました。

続いて、水産物の不正表示問題への取り組みにおいて、世界最大規模の活動を行うことで知られるオシアナの、上級研究員キンバリー・ワーナー氏がご登壇。シーフードが消費者の手にわたるまでの透明性の低さが根強い問題で、それによって犯罪が助長され、違法漁業、人権侵害が根強い問題として残っているという現状を紹介しました。また、価値の低い代用種にすりかえられて偽装表示が行われ、消費者が気づかずに健康リスクを負っているという問題も存在します。現に米国で2010年から2014年にかけて行われた研究によれば、1500サンプル中、なんと1/3が不正表示だったとのこと。また、2016年に行ったグローバルレビューでは、55カ国で行われたサンプリングの内、1/5ほどで不正表示が行われたいたというショッキングな事実を紹介しました。そのような問題を解決すべく、オシアナはGlobal Fishing Watchという商業漁船を無料でモニターできるサイトをグーグルと共同で立ち上げました。このシステムを使って、実際にキリバスの保護地区内で一隻が活動していることがわかり、この漁船に対して100万ドルの罰金が課せられたそうです。


右奥から:トレースレジスター・品質保証兼カスタマサービスアジア統括マネージャー森田 佐世氏、オシアナ・上級研究員キンバリー・ワーナー氏、WWFジャパン海洋水産グループ・シーフード・マーケット・マネージャー、三沢 行弘氏


そしてWWFジャパンの海洋水産グループ、シーフード・マーケット・マネージャー、三沢 行弘氏からは、2017にブリュッセルで発足したGlobal Dialogue on Seafood Traceabilityの活動を中心にお話をいただきました。これは、WWFがファシリテーターをつとめる非競争的な企業対話型プラットフォームです。グローバルにトレーサビリティを確保するため、事業に活用できる枠組みを整える目的ではじまった活動で、日本水産を始め、タイユニオン、セインズベリーなど、世界中の大手サプライチェーンのプレイヤー30社が参加をしています。トレーサビリティに関しては、技術的なハードルは解消しつつあるものの、ビジネス習慣の違い、異なるインフラ条件、モニタリング技術の乱立などが原因で、システムの統一や互換性の確保ができていないことが新たな問題となっています。そこで3つのワーキンググループが作られ、1)なにを主要なデータ要素(KDE)として採用するか、2)IT関連(アクセス、セキュリティなど)、3)政策や規制について、それぞれ話し合いをすすめています。

こういった様々なプレイヤーの取り組みや技術の進歩が、「トレーサビリティは難しくない。やってみよう、と思わせることにつながる」というファシリテーターのカウエット氏のしめくくりの言葉が印象的なセッションでした。



「和食継承を支えてきた生産者の思い、葛藤、取り組み」

そして3つめのセッションは、築地マグロ仲卸「鈴与」3代目店主・シーフードスマート代表理事の生田 與克氏の軽快なファシリテーションですすめられました。生田氏から「1984年をピークに、日本の水産物の生産量は前年比を上回ることが一度もなく、落ち込み続けている」という実情の紹介ののち、生産者側に立つ3名のパネリストからお話をいただきました。


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築地マグロ仲卸「鈴与」3代目店主・シーフードスマート代表理事、生田 與克氏


まず和歌山県那智勝浦町からお越しいただいた、ヤマサ脇口水産 代表取締役、脇口光太郎氏。鮪仲買業4代目という脇口氏は、マグロの漁場に近い那智勝浦町でも、25年前は170億円の水揚げがあったものが、今ではおよそ半分に減ってしまっていることから、乱獲がはびこる現状に危機感を抱き続けている一人です。この現状を打破するため、数年前にはMSC取得に挑戦をしましたが、予備審査は通過したものの、本審査のハードルが高く取得には至りませんでした。そこでまず、持続可能な漁業への取り組みを評価してくれる「那智勝浦ビンチョウマグロ延縄FIP」をオーシャン・アウトカムズ、海王丸とともに10月に発足。このマグロは11月から西友で取り扱いが始まっています。「那智勝浦の伝統的な漁法である延縄をつかったマグロの素晴らしさを広く知って頂き、東京オリンピックにも登場させたい」と力強く語りました。


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左:ヤマサ脇口水産 代表取締役・脇口光太郎氏、右:ヤフー CSR推進室、一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン事務局長・長谷川 琢也氏


そしてヤフー CSR推進室、一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン事務局長の長谷川 琢也氏から、フィッシャーマン・ジャパンの活動についてお話を頂きました。もともと横浜出身の長谷川氏、2011年の震災を機に「東北を元気にするために根幹の産業をなんとかしなければ」との思いで会社に働きかけ、フィッシャーマン・ジャパンを立ち上げ、石巻に移住・活動を続けています。三大漁場の近くにある東北では、震災前から漁師人口が激減し、子供には「漁師にはなるな」と話す漁師の多さに衝撃を受けたという長谷川氏。もともと漁師は、海の上では足を引っ張り合うライバル同士でしたが、震災をきっかけに手をとりあう仕組みが必要であるという考えが、若い世代を中心に理解されるようになってきたといいます。シェアハウスの提供や水産高校への働きかけなどを通じ、もっと漁業を日本中の若い世代から憧れられる職業にしようと活動をしています。また女川の銀鮭については、西友の助成金と販売の支援を受け、地元で30年以上銀鮭養殖業を営む株式会社マルキン、オーシャンアウトカムズと共にAIPを立ち上げました。今後は牡蠣のAIP立ち上げも目指すとのことです。

続いて国際一本釣り基金の東南アジア支部長であるジェレミー・クローフォード氏には、モルジブのカツオの一本釣りに代表される成功事例についてご紹介頂きました。一本釣りは、地域社会と海への貢献には最適な漁法。モルジブの雇用人口のおよそ25%、人数にして約3万人が漁業者ですが、これがもしまき網漁になると漁業人口は200人に減ってしまうそうです。一本釣りは環境に優しいことだけでなく、地元への雇用を供給し、GDPにも貢献していることがわかります。また政策面においては、地域漁業管理機関(RFMO)に働きかけ、漁獲決定ルールについて提案をまとめました。一方、トレーサビリティ実現のため、政府とともにシステムを開発。米国やEUなど、トレーサビリティ要件の厳しい国への輸出を実現させました。さらに漁業者、地域社会と協力をし、次世代の若い漁業者を育成するための漁業者トレーニングセンターも立ち上げました。また一本釣りしか使えない排他的経済水域を設けるよう働きかけ、地域社会の生活を守り製品競争力を高めることにも成功しています。「自らを低コストのプロバイダと位置づけるとリスクをともなう。バイヤー、小売にたいしてサステナブルな漁法で獲られたマグロの優先度を高めなければ」「世界全ての需要は満たせないが責任は果たせる。世界の水産市場に有意義な変化をもたらしたい」といった言葉に深くうなづかされました。


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国際一本釣り基金の東南アジア支部長・ジェレミー・クローフォード氏


「地域貢献」について様々な立場から議論が行われたこのセッション。「MSC自体を行政が理解していないことが課題(脇口氏)」「海は繋がっているのだから、どこかの行政だけがやってもダメ。無関心が一番の敵(長谷川氏)」「孤独だと思わずに、どんどんストーリーを話し理解者を増やしていくことで道は開ける(クローフォード氏)」といったそれぞれの言葉が印象的でした。



いよいよ次回は最終回。統括セッションの模様と、日本初のサステナブルシーフードレストラン「BLUE」監修によるメニューが振る舞われたレセプションについてお伝えします。


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