「COP15, COP26, TSSS2021 から 海洋分野における金融機関が果たすべき役割を読みとく」-連続ウェビナー「海の自然資本とESG投融資」 第2回報告-
世界では、海洋生態系を維持しながら、持続的な経済活動を目指すブルーエコノミーという考え方が浸透しつつあります。そこで弊社は、欧米の金融機関の最新動向などから、日本がブルーエコノミーに関するESG投融資において取るべき戦略を考える連続ウェビナー「海の自然資本とESG投融資」(全3回)を2021年から開催しています。
第2回のテーマは「COP15・ COP26・TSSS2021 から 海洋分野における金融機関が果たすべき役割を読みとく」です。
前回の2021年7月から今回の2021年12月までの間に、生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)の前半や、気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)など重要な国際会議が相次いで開催されました。また、サステナブル・シーフードのムーブメントを推進するアジア最大級のイベント「東京サステナブルシーフード・サミット2021」でも、水産業のサステナビリティの牽引役としての金融業界の重要性が示唆されました。
そこで、第2回ではこうした国際会議やサミットの内容から、ブルーエコノミーの発展のために金融機関が知っておくべきことや果たすべき役割を考えました。
(第1回の報告内容はこちら)
報告:第2回「COP15, COP26, TSSS2021 から 海洋分野における金融機関が果たすべき役割を読みとく」
開会挨拶
藤田 香 氏(日経ESGシニアエディター、東北大学大学院生命科学研究科教授)
講 演
- 山岸 尚之 氏(WWFジャパン 気候エネルギー・海洋水産室 室長)
- 花岡 和佳男(株式会社シーフードレガシー 代表取締役社長)
- デニス・フリッチュ氏(国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)サステナブル・ブルーエコノミー・プロジェクトコーディネーター)
パネルディスカッション
スピーカー
- 金井 司 氏(三井住友信託銀行 フェロー役員 チーフ・サステナビリティ・オフィサー )
- 椛島 裕美枝 氏(イオン株式会社 環境・社会貢献部 マネージャー)
- 山岸 尚之 氏(同上)
ファシリテーター - 花岡和佳男(同上)
<ポイント> ・国際社会では気候変動対策と生物多様性の両立の重要性が認識され始めている ・気候変動対策のための企業による動きはすでに始まっているが、生物多様性についてもCOP15で具体的な保全の数値目標や、その達成に必要な金額も設定された ・海洋への投資は否が応でもやってくる。これまでとは違う投融資の進め方を金融業界全体で考えるべき |
開会挨拶として日経ESGシニアエディターの藤田香氏が、2021年に開催された環境に関する国際会議のハイライトを紹介しました。
6月のG7では、生物多様性の損失や気候変動などの課題にG7諸国が協力して取り組む「2030年自然協約(Nature Compact)」が、10月のCOP15(第一部)では、遅くとも 2030 年までに生物多様性の現在の損失を回復させるため行動を取るべきとした、昆明宣言が採択されました。また、同月開催されたCOP26では、「気候変動対策」と「生物多様性」の両立の重要性が指摘されました。
2021年は、こうした国際会議のほか、TNFD(自然関連財務開示タスクフォース)の発足や、サステナビリティ・リンク・ローンなど海洋関係の金融商品も相次いで販売された年でもありました。今後、国連、企業、投資家がますます海洋を含めた生物多様性の保全に積極的になっていくだろう、と藤田氏は締めくくりました。
次に、実際にCOP26に参加したWWFジャパンの山岸 尚之氏が登壇し、COP26とCOP15の主な成果を紹介しました。
まずCOP26の主な成果は、世界全体の平均気温上昇の目標が2℃から1.5℃になったことです。これによりカーボンニュートラルやネットゼロの機運が高まり、会期中にも、政府、企業、金融機関による「気候のための海洋宣言」などが発表されました。
COP15の主な成果は、陸域と海域の30%を保全することを目標とした「30 by 30」の採択と、これを達成するために必要なキャッシュフローの目標値(年間3,000億米ドル、民間企業含)が設定されたことです。FINANCING NATURE: Closing the Global Biodiversity Financing Gapによると水産分野では230-470億米ドルが必要とされています。こうした具体的な数値が出されたことで金融機関が今後どのような動きを見せるのかが注目されます。
世界の生物多様性保全のために必要な年間金額(USD)(FINANCING NATURE: Closing the Global Biodiversity Financing Gap Foreward Executive Summary p.18 Fig.3 より)
次に弊社代表取締役社長の花岡和佳男が登壇し、東京サステナブルシーフード・サミット2021の概要を紹介しました。
世界的な人口増加に伴うタンパク質の需要増加に対応するためにも、水産業は持続可能にならなければなりませんが、乱獲やIUU(違法・無報告・無規制)漁業などが課題となっています。日本の水産物市場の規模は世界第3位、さらに近年は輸入量が増加しており、責任ある行動がこれまで以上に求められています。そこで、日本の水産業が持続可能になる道筋を考えるために、2015年から弊社と日経ESGで共催しているのが、東京サステナブルシーフード・シンポジウム(2021年からは「東京サステナブルシーフード・サミット」)(TSSS)です。今年は金融業界からも参加者が多く集まり、日本の金融機関もサステナビリティ・リンク・ローンを水産企業に向けて発行したことが発表されるなど、水産業界と金融業界の距離が近づきつつあることが紹介されました。
東京サステナブルシーフード・サミット2021ではESG投資がメインテーマに
次に、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)のデニス・フリッチュ氏が登壇しました。フリッチュ氏は経済的な意味も含めた海の重要性とその課題を挙げました。また、COP26では、海洋に関する取り組みは気候変動への取り組みでもあり、海が炭素吸収源として守るべきものとして文書化されたことも紹介しました。そして、ブルーエコノミーを実現する金融機関や投資家は重要な存在であり、投資家は自分たちの活動が海洋に与える影響などを理解することから始めるべきだとし、手助けとなるツールも紹介しました(Turning the Tide *英語)。
最後に三井住友信託銀行の金井 司氏、イオン株式会社の椛島 裕美枝氏、山岸氏によるパネルディスカッションが行われました。それぞれが企業・組織のサステナビリティに関する取り組みを紹介したのち、金融機関から水産業界へのアプローチなどについて議論が行われました。
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)をベースにつくられたTNFDは、TCFDの策定から学んだことを活かせば枠組み決定までのスピードも速まるのでは、との期待の声や、海に対する投融資は将来的に必要になるが、海には所有権がないためキャッシュフローが起きない、どのように可視化すべきかを考える必要がある。企業がサステナビリティのための取り組みを進めるかどうかは経営トップの判断による、などの意見が上がりました。
水産業界と金融業界との関わりはまだ始まったばかりですが、気候変動による影響が目に見える形で現れている今、両者の緊密な連携が必要となります。
2022年2月9日(水)開催予定の、ウェビナー第3回では、ESG投資のためのツールを用いて、水産業界への投資の実践に向けた考え方を学びます。