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日本の水産企業はどう評価されるのか?―Seafood Indexが示す投資家対話の最前線 開催報告

気候変動、生物多様性、社会関連に至るまで、サステナビリティに関する情報開示は、任意から義務へと移行しつつあります。

こうした変化の中、食品セクターを対象にサステナビリティに関する機会とリスクへの関心を高める世界的な投資家ネットワークであるFAIRRイニシアチブ(以下、FAIRR)が、水産企業のベンチマーク「Coller-FAIRRシーフード・インデックス(以下、シーフード・インデックス)」を2026年5月末に初めて公表しました。 

今回のシーフード・インデックスは、日本企業6社を含む、世界の主要水産企業20社を対象に、トレーサビリティや汚染の影響などについて明らかにしました。結果から見えてきた日本の水産企業の現在地、そして今後、取り組むべき課題とは何でしょうか。

インデックス発表直後の6月に行われたイベント「日本の水産企業はどう評価されるのか?―Seafood Indexが示す投資家対話の最前線」の様子をお伝えします。

<開催概要と登壇者プロフィールは以下のリンクにてご覧いただけます>

https://seafoodlegacy.com/FAIRR_seminer_20260611

<Coller-FAIRRシーフード・インデックスについて>

https://times.seafoodlegacy.com/fairr-seafood-index/

https://times.seafoodlegacy.com/max_boucher_2/

講演 シーフード・インデックスの結果について

キーラン・グウィリアム=ビハリー(FAIRRイニシアチブ)

初めに、FAIRRでシーフード・インデックスの開発および運用を担うキーラン・グウィリアム=ビハリーさんが、シーフード・インデックスの結果を解説しました。

シーフード・インデックスについて説明を行うキーラン・グウィリアム=ビハリーさん

食料システムは生物多様性の喪失や経済・健康に大きな影響を与えます。FAIRRは集約型畜産や食品業界において財務上重要となる「リスクと機会」について、人々の理解や認識を高めることを目指す、投資家ネットワークです。 

FAIRRに参画する400以上の機関投資家からは、投資先企業のリスクと機会をより深く理解したいという高い需要があります。そこで、FAIRRは「シーフード・インデックス」などのベンチマークや調査、エンゲージメントを提供し、投資家が企業行動を後押しできるよう支援しています。

海洋は、数兆ドル規模の経済活動を支える基盤です。また、世界のタンパク質供給の約15%を担う重要な自然資源を有しています。同時に気候調整機能も持つため、水産資源や沿岸生態系の劣化は経済、食料安全保障、気候に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

本インデックスは、水産企業のリスクと機会への対応力を「成熟度」として評価するものです。リスクの有無ではなく、リスクをどのように認識し行動に結びつけているかを重視しています。本インデックスの評価対象は世界の主要水産企業20社で、多くが日本やタイに拠点を置いています。漁業、養殖、飼料、加工・流通など多様な事業をカバーしているため、事業特性に応じた設問設計を行い、実態に即した評価を行うことを重視しました。

「シーフード・インデックス」についての説明スライド。
右側には調査対象企業の本社所在地の内訳がグラフ化されている

評価はガバナンスやトレーサビリティ、生態系への影響、労働者のウェルビーイング 、さらにタンパク質源の多様化など将来の機会を含む16項目から構成されています。各項目はリスク評価、方針、目標、戦略の実施、成果評価指数の5つの成熟度指標から体系的に分析しました。

16の評価項目において、5つの成熟度指標を用いて評価

分析結果では、総合スコアは100点満点中13点から50点台に分布していました。欧州のサーモン養殖企業は情報開示がより安定して行われているため、高評価を得ています。全体的に社会分野は比較的高評価でしたが、環境分野はばらつきが大きいことがわかりました。企業は方針の表明には積極的ですが、取組みや成果の開示は不十分です。

各社の結果を示すグラフ

また、本インデックスはリスクだけでなく機会にも注目していますが、植物由来などの代替タンパク質分野で先行しているのはアジアの企業でした。保健分野では、食品安全における評価が高い一方で (43/100点)、抗生物質管理 (27/100点)や動物福祉 (26/100点) には課題があります。

トレーサビリティについて、対象企業の平均スコアは27点と低調でした。FAIRRでは現在、第三フェーズのトレーサビリティエンゲージメントを進めており、アジア太平洋地域を中心に7社が参加しています。

本インデックスは、膨大な企業情報を投資家にとって意思決定に役立つ形に整理して伝えることを目的としています。FAIRRは本インデックスを用いて今後も企業と建設的な対話を行っていきます。今回のインデックスは「旅の始まり」です。本インデックスは、2027年に更新される予定です。

講演 海洋関連指標のCDP開示プラットフォームへの統合

原田 卓哉(一般社団法人CDP Worldwide-Japan)

海洋関連指標に関しては、CDPも2026年から質問書に項目を追加しています。CDPでディスクロージャー部門のAPACヘッドを務める、原田卓哉さんに解説いただきました。

CDPについて説明する原田卓哉さん

CDPはこれまで、気候変動、水セキュリティ、森林といった環境課題を中心に、企業や自治体の情報開示を促進してきました。2025年時点では、世界で2万社を超える企業と1,000以上の自治体がCDPを通じて情報開示を行っており、日本でも主要上場企業に浸透しています。TCFDやISSBなど国際的な枠組みとの整合も進めてきました。

2026年からは新たな環境課題として「海洋」を追加し、企業による海洋に関する情報開示の促進を開始しました。海洋は、重要性が広く認識されているにもかかわらず、体系的な情報開示が遅れてきました。海洋は地球最大の生物圏であり、気候調整、食料供給、経済活動を支える基盤です。21世紀に入り、海水淡水化、養殖、海運、洋上風力も拡大しています。海洋管理の重要性が高まるにつれ、データの可視化の必要性も急速に高まっています。

CDPにおける海洋の情報開示では、新たに独自の枠組みを作るのではなく、TNFDをはじめ既存の60以上の枠組みを参照しました。依存、インパクト、リスク、機会を重視し、従来のCDP質問書の構造の中で海洋を位置づけています。これにより、企業にとっては既存の開示プロセスを活用しながら、海洋に関して開示できる設計となっています。

海洋関連情報の統合計画の詳細


初年度は任意開示とし、企業が自社にとっての海洋との関係性を理解し、段階的に対応を進めることを重視しています。今後は、ガバナンス、戦略、リスク評価、目標設定、サプライチェーン・エンゲージメントといった情報が可視化され、金融機関によるリスク評価や投融資判断、企業との対話に活用されることを期待しています。


パネルディスカッション:シーフード・インデックスと水産業の未来

後半では、5名のパネリストにご登壇いただき、パネルディスカッションを行いました。


パネリスト(敬称略): 

マックス・ブッシェー(FAIRRイニシアチブ)

粟野 美佳子(TNFD)

岡添 巨一(農林中央金庫経営企画部/ (株)農林中金総合研究所)

河合 若葉(野村アセットマネジメント株式会社)

西 昭彦(株式会社ニッスイ)


モデレーター:

花岡和佳男(株式会社シーフードレガシー代表取締役社長)

パネルディスカッションの様子。各自の視点を持ち寄り、意義深い議論が展開された

―FAIRRはなぜ今、シーフード・インデックスを開発したのでしょうか。またシーフード・インデックスはTNFDという自然資本の“共通言語”があるからこそ出来上がりました。TNFDはどのような背景から生まれたのでしょうか。

ブッシェー: FAIRRは過去数年にわたり、アジア、特に日本において、水産物のトレーサビリティに関するエンゲージメントを続けてきました。養殖業界とも長年にわたって対話を続けています。加えて、昨年フランスのニースで開催された国連海洋会議以降、海洋関連リスクにより主体的に向き合う動きが投資家に広まっています。そこで、今こそこれまでの知見を統合し、水産セクターに本格的に向き合うべきタイミングだと考えました。

粟野:世界経済フォーラムが生物多様性をグローバルリスクと挙げるなかで、機関投資家が危機感を持ち始めました。ところが自然資本に関して共通の枠組みがなく、TNFDの検討が始まりました。機関投資家と企業の共通言語として、TNFDは広まりを見せているのだと考えています。

―シーフード・インデックスの対象企業20社のうち、6社を日本企業が占め、国として最多です。世界の水産業界で、日本企業はどのような役割がありますか。また、日本の水産関連企業や金融機関はインデックスをどのように活用できるでしょうか。

ブッシェー:日本企業はいくつかの重要な分野でリーダーシップを発揮しています。特にタンパク質源の多様化では、豆腐や魚、肉を組み合わせた柔軟な食のあり方が評価されており、ニッスイやUmiosは世界的に高い評価を得ています。トレーサビリティに関してはトップ水準ではないものの、日本企業は最も速いペースで進展しており、投資家とのエンゲージメントを通じて今後さらなる改善が期待されます。

シーフード・インデックスの役割は、CDPやTNFDなどの情報を統合し、科学的かつ客観的に「望ましい姿」を示すとともに、企業が改善に向けた道筋を理解できるようにする点にあります。加えて、優れた企業の事例を示すことで、他企業の取り組みを促進する役割も果たしています。

粟野:インデックスは順位や点数を見るためだけのものではなく、自社が改善すべき領域を把握し、目標設定に結びつけるためのツールです。評価結果を「通知表」のように受け止め、なぜ弱いのか、何をすれば改善できるのかを考えることで、企業は実効性ある改善策を検討できます。特に格付けは、各社が強化すべき点を体系的に理解する手掛かりとして活用できると考えています。

―金融機関としてインデックスをどのように見ていますか。

岡添:シーフード・インデックスは、企業とのエンゲージメントやベンチマーク設定に有用な指標です。一方で、その結果をエンゲージメントでどう活用するかが重要です。日本の水産企業にとってトレーサビリティの向上は重要ですが、追跡しやすい原料や商品に偏ると、インデックスの一つであるタンパク質源の多様化や、日本の多様な魚食文化に沿った販売戦略との両立が難しくなるというトレードオフが生じるおそれがあります。トレーサビリティは目的ではなく手段です。トレーサビリティの改善方法は、事業活動のレジリエンスを高める目的のもとで選択していく必要があるのではないでしょうか。

河合:シーフード・インデックスは、多様なトピックを共通の尺度で評価することで、企業間比較や各社の改善余地を把握しやすくする有用なツールです。投資家にとっては、企業との対話を進める際の「地図」として活用できるほか、非財務データや独自のESG評価において、企業のリスク、機会、対応状況を評価するための参考情報にもなり得ます。

ブッシェー:海面養殖、陸上養殖、天然漁獲など、それぞれに利点と課題があり、動物福祉、汚染管理、投資収益性などの観点でトレードオフが生じるのは確かです。インデックスは、こうしたトレードオフを隠さず透明に示し、投資家が各生産方式のリスクと機会を理解できるよう支援することを目指しています。

―評価対象企業としてインデックスの結果をどのように見ていますか。今後どのように活用していきたいですか。

西:シーフード・インデックスは、自社が認識していた強み・弱みをおおむね反映しており、客観的な外部評価として社内の議論に活用できると考えています。特に点数が低かった項目については、担当部門と中長期的な対応を検討し、次回評価での改善を目指しています。一方で、順位だけを見ると、日本企業は遅れていると捉えられる恐れがあります。20社の事業範囲や対象となる水産ビジネスの幅は大きく異なるため、評価は文脈を踏まえて理解しなければなりません。ぜひ、日本企業が遅れているという誤った理解が広がらない発信をしていただきたいところです。

ブッシェー:インデックスは、各企業の事業内容、地域特性を踏まえて詳細に読み解くことが重要です。特に水産業では操業場所ごとの条件が大きく異なるため、TNFDでも重視される地域固有のデータを含め、文脈に即した理解が欠かせないと考えています。

会場参加者との質疑応答も行われた 

―最後に皆さんから一言ずつお願いします。

西:サステナビリティを、リスク対応だけでなく事業成長の機会としてどう位置づけるかが今後の課題です。特に、将来のキャッシュフローや企業価値にどのように影響するのかを、投資家に対してより定量的かつ分かりやすく伝える必要があります。今後は、機会の側面を重視した投資家とのコミュニケーションを強化していきたいと考えています。

河合:シーフード・インデックスのような知見を活かし、また各社のビジネスモデルも十分理解したうえで、さらなる透明性と実効性を高めていっていただけるよう、企業との対話を進めていきたいです。

岡添:水産業界は自然関連リスクに対する解像度がほかの業界よりはるかに高いと考えています。一方でそれらをうまく機会に活かせていない現状もあります。「開示して終わり」ではなく、発展させて事業戦略にいかに組み込んでいくかの議論をしてきたいと考えています。

粟野:開示は、自社の課題を見つめるためのツールです。課題を可視化し対策を考える ツールとして、TNFDをぜひ活用していただきたいと思います。

ブッシェー:リスクがあるところには機会もあります。私たちが協働する投資家は、機会に大いに注目しています。投資家は常に新たな投資分野を探しているので、機会に焦点を当てることが重要です。

―ありがとうございました。こういった議論がきっかけになって、水産業界と金融の接点がより深まっていくことを願っています。

閉会挨拶:持続可能な水産業を目指し、企業の新たな価値創出へ 

最後に、FAIRRでインベスター・アウトリーチ担当シニア・マネージャーを務めるソフィア・デ・ラ・パラさんに閉会挨拶としてお話しいただきました。

議論を振り返り、今後について語るソフィア・デ・ラ・パラさん

海洋の持続可能性はもはや、環境保護や企業イメージだけの問題ではありません。企業の長期的な競争力や収益に関わる重要なテーマです。また、投資家や企業は、リスクへの早期対応によって生まれる新たな事業機会にも注目しています。TNFDやCDPのような枠組みは、企業の取り組みをわかりやすく示し、将来の価値づくりにつなげるために役立ちます。

海洋の課題は一社だけで解決できるものではなく、企業、投資家、政府、NGOなど、さまざまな立場の人たちが協力することが欠かせません。今後は、情報開示をさらに進めること、サプライチェーンをたどれるようにすること、取り組みの進み具合を見える形にすること、加えて、機会を作り出す企業を支援することが求められます。これこそがシーフード・インデックスが目指すところです。今後も皆様と協力を続けていきたいと思います。